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銀河鉄道の父のd3のレビュー・感想・評価

銀河鉄道の父(2023年製作の映画)
3.7
独自の世界観による名作を数多く残している宮沢賢治。いまでこそ国民的に愛される作家だが、生前は作家としてほとんど収入を得ることがなかった。
そう聞くと不幸だったのかと感じるが、本作では作品が売れなくても多幸感のある生涯をおくった宮沢賢治とその父が描かれる。

父は賢治を溺愛していたと言えるだろう。家父長制が息づく昭和初期では珍しいほどに賢治を可愛がる。入院すれば看護で付き添い、進学したい退学したいは希望通りにさせてやり、家を継がず別荘でひとり原稿を書くのもあたたかく見守る。
そこには、生前作家として大成することはなかったという事実から連想されるような不幸はまったく見当たらない。
売れなかった自費出版の本は父親の金で買い取ってしまうのだ。

賢治の基本姿勢は作家で成功することよりも、どうすれば自分が人の役に立てるかというところにあったように思う。学問で得た農業の知識を地域の農民たちに教え、物語は夭折した妹のために書き始めている。
読みたい読者が身近にいて、応えられるように寓話をつむぐ。夢の中にいるような文体は、家族愛人間愛から生まれたものなのだろう。
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