クシーくん

オットーという男のクシーくんのレビュー・感想・評価

オットーという男(2022年製作の映画)
3.9
見るからに感動します!みたいな広告を差し挟んでくるタイプの映画は余り観ないんだけど、アマプラのトップ画面に出てきて何の気なしに観てしまった。まんまとしっかり泣ける良い話だった。無難な内容だけど、こういうヒューマンドラマはたまに摂取する必要のある栄養。

「幸せなひとりぼっち」というスウェーデン映画のリメイクらしいけど、そちらは観てない。ただ単なるリメイクという訳ではなく、現代アメリカへのソフトな風刺が作中の随所に試みられている。
オットーは細かいルールに几帳面な口煩い、良くも悪くも古き良きアメリカのお爺ちゃんなんだけど、偏見の為に不当な迫害や差別をするような奴は同様にバカもん!とスタンスがハッキリしていて小気味良い。線路内に落ちた老人をオットーが助ける中で、線路に立ち尽くすオットーを誰も助けずにスマホを握りしめて動画撮ってるだけ、ようやく手を差し伸べてくれたのがオットーとそう変わらない年回りのおじさん…というのも分かりやすいが皮肉が効いている。

しかしトム・ハンクスも年を取ったなあ…「ペンタゴン・ペーパーズ」(2017)の時はまるで老いを感じなかったけど、こういう役回りを演じるようになったんだな。とはいえまだまだ映画に出続けて、アメリカの良心を体現して欲しい。
観た後で知ったんだけど、若き日のオットーを演じていたのはトム・ハンクスの息子トルーマン・ハンクス。元々撮影監督畑の人で、演技は本作が初とか。とは思えないほどいい演技をしていた。トム・ハンクスに似ているかと言われたら?だけど。彼女との馴れ初めシーンとか一歩間違えたらストーカーだけど、めちゃくちゃ良いシーン。オットーの過去が明かされていく過程で、オットーがどれほどソーニャを愛していたかが波のように伝わって来て、どれほどオットーが絶望していたのかも同時に分かって来る演出にじわじわと泣ける。

お前とは絶交だ!と決別していた隣人のルーベンとの過去が明かされた新車お披露目バトルは笑った。シボレーは良いけど日本車は許せねえ!

あと日本の配給会社に文句言っても仕方ないんだけど、「町内イチの嫌われ者」は普通に嘘でしょ。小言が煩くて煙たがられてるけど周囲は割と理解のある人達で元々嫌われてる訳でもない。逆に言えば単なるイヤな奴じゃなくて元々ハッキリした信念があったからこそ、周りも手を差し伸べてくれたし、オットー自身も救われる事が出来たんだなと。
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