正直、鑑賞前はあまり期待していませんでした。
ディズニーのポリコレ、多様性には「またか…」という感じでしたし、『ストレンジワールド』の前科がありますから…
その上、設定もくさい。
元素を擬人化させて相容れない火と水の恋愛を描くだなんて、あまりにも典型的すぎると言うか、いかにもすぎて「ポリコレの教科書」みたいな設定だなと。
唯一の希望はこの映画がPixar作品だということでした。
そして結果的に、Pixarはこの映画をただの薄いポリコレ映画ではなく、ちゃんと映画作品として評価される映画に昇華することに成功しています。まさか、あんなくさい設定でここまで面白い映画が作られるとは…良い意味で予想を裏切られました。
毎回Pixarの手腕にはほんとに驚かされます。
Pixarの良さは、ちゃんとエンタメ作品として面白いことと、しっかりメッセージ性があって分かりやすいことです。
その真髄にあるのは、「自分事」として描いている、ということだと思います。
『トイ・ストーリー』も、『リメンバー・ミー』も『私ときどきレッサーパンダ』も、「きっと制作陣の誰かが劇中のキャラと同じ体験をしたんだな。その体験を描いてるんだろうな。」ということが観ていて分かるのです。
なのでキャラクターの描き方も設定も凄く身近でリアル。あーこういうことあるな。こういう人いるな。っていう描写がとにかく上手いんです。
「自分事」として描いていることによってキャラクター一人一人に深みが生まれ、本当の「個性」を感じさせてくれます。
あと感情移入しやすいのでめっちゃ泣けるんですよねそういう映画…
本作の肝となる「元素」という設定も、安易なものにならず、しっかり活かされていて、ちゃんと意味のあるものになっています。
元素それぞれの特性を活かした世界観の描写、ストーリー展開には驚かされます。あまりの上手さに。
Pixarの良さとして、「作り込みの密度」が挙げられますが今回も、元素の特性をちゃんと科学に則って描き、キャラクターの細かい仕草まで描き込まれていて観ていて楽しかったです。
映像はやはり、Pixar。めちゃくちゃ綺麗です。私はディズニー+で鑑賞しましたが、「映画館に観に行けば良かった」と後悔しました。「エレメント・シティ」の描き込みが素晴らしい。
パッと見てニューヨークあたりをモデルにしたんだろうなと察せるくらい露骨ですが。
そういう点も含め、本作はズートピアと結構近いんですよね。ただこちらの方がキャラクターそれぞれの特性について踏み込んで描いています。
その分生々しさもあって、キャラクターを通すことで一応重さを軽減してはいますが、
彼らと同じ体験をしたことがある人にとってはかなり刺さる…
移民二世として、生まれた瞬間から親の意志と祖国を背負わされる主人公の描写には、
制作陣の並々ならぬ思いを感じます。
初めは、キャラクターデザインに取っ付きにくさがあるかもしれません。
ズートピアのように可愛い動物とかにしていればもっと興行収入が伸びたと思います。
でも、この映画はこのキャラクターが良い。
映画を観始めて数分で彼らのことが好きになるし、このキャラデザも愛おしくなります。
火と水の恋愛模様にもキュンキュンさせられるので、ロマンス映画としての作りも上手い。
Pixar映画はメイキングまで観ると、より納得させられるので「マイ・エレメント」のメイキング映像もまだ観てない方は是非観て欲しいです。