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お帰りなさいのdm10foreverのレビュー・感想・評価

お帰りなさい(2022年製作の映画)
3.7
【陽の沈む道】

お正月に見た短編のレビュー漏れ。

ある意味、本当に「お帰り」だね。
タイトルからして、まるで本人に当て書したようなお話。
やっぱり伊藤健太郎と言えば「例の一件」での書類送検、芸能活動自粛、謹慎・・・。

まぁね、あくまでもニュースや報道で見聞きしただけだから実際の状況がどうだったのかは知らないんだけど、表現や印象の前後多少はあるにせよ大方の話は恐らくあの通りなんだろう。

そして事故を起こしたこと以上にショックだったのは、それを放置して立ち去ろうとしたこと(いわゆるひき逃げ)。
せめてあの場で立ち止まって救護するなり救急車を呼ぶなりしていれば、彼のその後は違ったものになったのかもしれない・・・。
でも、結果的に彼は「してはいけない事をして」、もっと言えば「しなければいけない事をしないで」、そして罰を受けた。

・・・「この一件」について今更僕がとやかく言うつもりはない。
彼は散々叩かれたんだろうし、芸能人であるが故に、一般的な日本人が受ける刑罰に加えて社会的制裁も十分に受けてきたのだろうと思うから、まして当事者でもない僕はこれ以上事件に付いて言及しようとは思わない。

ここから先は実際に被害に遭われた方(あと企業等)と彼本人の間の問題であって、第三者が執拗に詮索したり攻撃したりする必要はない。
それが法治国家としてのルールだから。

そして、ここから先に彼を待つのは、単純に「需要と供給」という評価を受けるだけのシビアな世界。
そういった背景を持つ彼が「夢破れて再起を図る青年」という役を演じたのも偶然ではないだろう。
彼が「俳優として」この舞台に帰ってきたとして、その演技が素晴らしければ「俳優として」評価したいと思う。

もちろん、まだまだ心情的に彼のこと(演技)を受け入れられないという方もいると思うし、それも否定は出来ないと思う。
俳優として大切な「イメージ」を自分自身で壊したのだから。

それでも、僕は今後も「俳優」として彼を見ていくと思う。
償いは償いとして今後も彼自身が背負い続けるものとして、その上で真摯に役に向き合って何かを伝えてくれるなら、僕は見続けると思う。
まだまだ荒削りだし、彼が出ているというだけで作品を見る理由になるという程ではなけど、それでも彼の演技や存在感は嫌いじゃないし。

――夕日が沈む瞬間に、海面に映し出される「陽の沈む道」。
そして、その光を目印に帰ってくる船乗りたち。
どんなに不安でも、あの道があれば帰って来れる。

「雄大はなんで帰って来たんね?」
「・・・逃げてきたんだ」
「帰ってくるのが少しだけ早かったんだねぇ。大きい声で喋ってみんさい。やりたいことを」
「・・・俺、まだ終わってない。終われないよ!」
「・・・今度は胸張って帰っておいで」

極寒の青森で一人で暮らしているおばあちゃん(大方緋紗子)の優しさが全て。
目も見えにくくなり、体の自由が利かなくなってきて、それでも「ふるさと」として居てくれる。
「青森」っていうのがまた絶妙な「故郷感」ですよね。
中途半端に都会になってしまった札幌ともまたちょっと違うというか、陸続きだからこその「距離感」っていうのかな。
たぶん「昔から変わらない温もり」を求めて札幌に来たいっていう人は少ないと思う。
そんな伝統的なものは、もう札幌にはないから。

青森も札幌同様に冬ともなれば雪の量はハンパないし、しばれるし(凍えるくらいに寒いという意味)。
でも、そういう環境にあって「変わらない暖かさ」っていうものを感じてしまうってのは、単なるイメージだけなのだろうか?
今作でも、そういう厳しい現実の中でも自分が立ち止まれる場所はきちんとあって、そこからもう一度歩き出すことが出来るんだっていう事を描きたかったんだろうな・・・と。

僕にも青森に住む親戚が居るけど、やっぱり変わらない良さというか、いい意味で「田舎」を感じさせてくれる。
自分自身のルーツではないけど、何処か「優しく迎えてくれる場所」があるってのはいいことかもしれない。
それは「いつでもそこに逃げられる」という意味ではなく、そういう場所があるという安心感が自分に力を与えてくれるんじゃないのかな・・。

『過ちて改めざる是を過ちという』
過ちは誰でも犯すが、本当の過ちとは、過ちと知っていながら悔い改めないことである。

これからも大変だろうけど、がんばれ。
dm10forever

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