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シック・オブ・マイセルフのkuuのレビュー・感想・評価

シック・オブ・マイセルフ(2022年製作の映画)
3.6
『シック・オブ・マイセルフ』
原題 Sick of Myself 映倫区分 PG12
製作年 2022年。
劇場公開日 2023年10月13日。
上映時間 97分。
強烈な承認欲求に取りつかれた女性の破滅的な自己愛をシニカルかつコミカルに描いた北欧発の寓話的ホラー。
ノルウェー・スウェーデン・デンマーク・フランス合作。
主演はクリスティン・クヤトゥ・ソープ。
本作が長編第2作となる新鋭クリストファー・ボルグリが監督・脚本を手がけた。

ノルウェーの首都オスロ。
人生に行き詰まっている女性シグネは、長年にわたり競争関係にあった恋人トマスがアーティストとして脚光を浴びたことで激しい嫉妬心と焦燥感にさいなまれる。
シグネは自身が注目されるための『自分らしさ』を手に入れるため、ある違法薬物に手を出してしまう。
薬の副作用で入院することになり恋人からの関心は得たものの、シグネの欲望はさらにエスカレートしていき。。。

今作品はオスロを舞台に、30代かその手前の若い女子が主人公で、アンデルス・ダニエルセン・リー(『オスロ、8月31日』)が(ほんの一瞬)出演しているし、今作品は『わたしは最悪』(2021年)との比較は避けられないんちゃうかな。
しかし、クリストファー・ボルグリ監督(かなりハゲ散らかしたニコラス・ケイジのポスターを最近見かける『ドリーム・シナリオ』の監督)のドラマは、ヨアヒム・トリアー監督のアカデミー賞ノミネート作よりも遥かにひねくれた、ますます厄介な旅に出るもので、精神病のテーマと不快なユーモアを巧みに組み合わせていました。
主人公のクリスティン・クヤス・ソープは、レナーテ・ラインスヴェのジュリーを聖人のようにさえ見せている。
今作品は辛辣で、卑猥で、最初の表面的なブラック・コメディのレベルを超えて、社会の数々の欠陥に対する巧妙なコメント作品にさえなっていた。
アート作品や(盗んだ)椅子が散乱するお洒落なアパートに住むシグネとトーマスは、主に不健全な競争によって築かれた毒のある関係を生きている。
トーマスの芸術家としての仕事がシグネより先に脚光を浴びると、主人公は反撃を決意する。
大勢のディナーゲストの前で、重度のナッツアレルギーがあると偽る彼女の行動は、見ていて耐えがたく、どんどんドラマを盛り上げていく。
これらは、今作品の多くの不安を誘う瞬間のうちの2つに過ぎず、主人公が社会的気まずさの穴をどんどん深く掘っていく、終わりのないモンタージュのような展開を見せることもある。
シグネのナルシシズム、より具体的にはミュンヒハウゼン症候群(精神疾患の一つであり、自分や我が子が怪我や病気であると偽造して、必要以上に周囲の気を引いて同情を買うことで満足感を得ようとする行動が繰り返して認められる症状)が前面に出てきたとき、事件はより暗い方向へと向かう。
ミュンヒハウゼン症候群は意図的に病気を誘発する精神障害で、シグネは元カレで麻薬の売人でもある男に皮膚病を引き起こす錠剤を求める。
その後、彼女が重篤な身体疾患に陥っていく様子は、シャープなコメディの傍らで印象的に描かれている。
シグネは人に心配されることに喜びを感じているようだが、それは『ファントム・スレッド』(2017)のねじれた中心的関係とは異なり、彼女に興奮と価値感を与えるもの。
今作品全体を通して飛び交うカメラワークは、シグネの落ち着きのなさと、社会的不安と強迫的に嘘をつくことへの罪悪感に集約されるような彼女の不安を助長している。
今作品はシグネからより広く抜け出し、孤独、社会のナルシシズム、そして、人々がウイルスに感染することへの奇妙な願望についてのスマートな作品でもある。
トーマスも同様に自己破壊的であり、彼らの友人たちも皆、気取った自己中心的な態度において様々に似ている。
最も重要なんは、シグネの行動は嘆かわしいもので、しばしば残酷かもしれないけど、彼女の精神状態の悪さが、彼女に対する真っ当な判断を難しくしていること。
時折、行き当たりばったりの編集が素材との間に若干の断絶をもたらすこともあるけど、今作品は、ボルグリ監督の脚本がコメディとドラマのバランスを巧みに取りながら、どちらの推進力も失うことなく、常に激しい緊張感を保っている。
さらに耐え難い場面では、2人がセックスをしながら、シグネの架空の葬式を下ネタをおかずにしている。
彼女自身は、キャラの精神状態を的確に表現し、最もぎこちないシーンでは説得力を、最も憂鬱な状態では感情を揺さぶる。
つまり、彼女が今作品を前進させていると云える。
風刺と精神病のテーマを軽妙に組み合わせた『Sick of Myself』は、ユーモアと哀愁を帯びた、知的で不快(よい意味で)な映画へと印象的にしてました
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