タケオ

コカイン・ベアのタケオのレビュー・感想・評価

コカイン・ベア(2023年製作の映画)
3.7
-80年代テイスト全開、とにかくご機嫌なブラック・コメディ!『コカイン・ベア』(23年)-

 映画冒頭、ハイになった密輸業者が飛行機の中で、ジェファーソン・スターシップの『Jane/ジェーン』(79年)のリズムに合わせて踊りながら、森にコカインを投げ捨てていく。実にご機嫌な導入部だ。監督を務めるエリザベス・バンクスが以前に女優として出演した『ウェット・ホット・アメリカン・サマー』(01年)も同じく『Jane/ジェーン』から始まる作品であり、おそらくそれを意識しての選曲だろう。『ウェット・ホット・アメリカン・サマー』と同様、本作も80年代のテイストを再現しようと試みた作品であり、そして見事に成功している。
 1985年9月11日、密輸業者アンドリュー・C・ソーントン2世はFBIの追跡から逃れるため、コロンビアから密輸中の1500万ドル相当のコカインとともに飛行機から飛び降りた。しかし、パラシュートが開かずそのまま死亡。3か月後、ソーントン2世とともに落下したコカインを過剰摂取したとみられる熊の死体がチャタフーチー国立森林公園で発見された。事件の細部についてはサリー・デントンが執筆した『The Bluegrass Conspiracy』(90年)などに詳しく記されており、本作はそんな史実に基づいて制作されている。『The Bluegrass Conspicuous』ではソーントン2世の死がやがてアメリカ政府の一代スキャンダルにまで発展していく様が描かれるが、本作はそこまでは踏み込まない。あくまで「もしもその熊がラリって人を襲いだしたら?」というブラック・コメディに徹している。エクスプロイト映画としては正しい態度だ。また、リブート版『チャーリーズ・エンジェル』(19年)では鳴りを潜めていたバンクスの本来の作家性が噴出しているのも良い。なんせバンクスの監督デビュー作は、あの悪名高き『ムービー43』(13年)なのだ。バンクスは『ムービー43』で、初潮をむかえた少女(演じるのはクロエ・グレース・モレッツ!)とその彼氏がパニックに陥る様を露悪的に描いた。本作でも終始不謹慎なジョークが飛び交い、ローティーンがコカインを摂取し、そしてラリった熊の襲撃によって肉片が四散する。悪趣味全開、なかなか気合いの入ったゴア描写にも驚かされる。本作はある種の「スラッシャー映画」であり、同時に由緒正しき「モンスター・パニック映画」でもあるのだ。サービス精神溢れる、とにかく楽しい作品なのである。それでいて鑑賞後にはまったく何も残らないあたり、いかにも80年代テイストらしい。
 豪華俳優陣のアンサンブルも目を引く。ケリー・ラッセル × マーゴ・マーティンデイルという『ジ・アメリカンズ』(13~18年)でお馴染みの2人の共演も嬉しいが、やはりなんともいってもレイ・リオッタである。2022年5月26日にアテローム性動脈硬化で亡くなったため、リオッタにとっては本作が遺作となった。『グッドフェローズ』(90年)で実在するマフィアの構成員を演じてブレイクしたリオッタの最後の役がギャングのボスだったとは、なかなか感慨深いものがある・・・ような気がしなくもない。悪役を中心に多種多様なキャラクターを演じ、映画ファンを楽しませてきたリオッタに心からの感謝を捧げたい。合掌。
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