ぶみ

インフィニティ・プールのぶみのレビュー・感想・評価

インフィニティ・プール(2023年製作の映画)
4.0
罪をつぐなうのは、もう一人の自分。

ブランドン・クローネンバーグ監督、脚本、アレクサンダー・スカルスガルド、ミア・ゴス主演によるカナダ・クロアチア・ハンガリー製作のスリラー。
高級リゾート地を訪れた夫婦に巻き起こる不可解な出来事を描く。
主人公となる作家ジェームズをスカルスガルド、資産家の娘である彼の妻エムをクレオパトラ・コールマン、リゾート地で出会う女性ガビをゴス、彼女の夫アルバンをジャリル・レスペールが演じているほか、トーマス・クレッチマン、アマンダ・ブルジェル、ジョン・ラルストン等が登場。
物語は、ジェームズ夫妻が孤島のリゾート地「リ・トルカ島」を訪れたところ、クルマで人身事故を起こしてしまうものの、そこでは大金を払えば自身のクローンを作ったうえで、そのクローンが死刑の身代わりとなることにより罪を逃れられるというルールが存在していたことから、次第にそのルールがもたらす闇に転落していくジェームズの姿が中心となるのだが、本作品の肝は、やはりそのルールであるとともに、ジェームズを誘うガビを演じたゴスの演技。
近作では、シリーズものと化しているタイ・ウェスト監督『X エックス』『Pearl パール』で強烈なインパクトをもたらしたゴスが、本作品でも、登場した瞬間から、妖艶さと不気味さを全身から放つという抜群のオーラを持っており、いつその本性が開放されるのだろうかと思っていたところ、ジェームズのとあるシーンにおいて絡み始めた途端、あれよあれよという間に、ジェームズともども観る側も彼女の魅力に闇堕ちしていくことに。
以降、果たしてそれが本人なのかクローンなのか判別がつかないというサスペンス要素と、一体これは何を見せられているんだろうという倒錯した世界観がもたらす本作品の魔力に引き摺り込まれ、登場時とはもはや別人のようになってしまうジェームズをスカルスガルドが見事に演じている。
そんな中、普段は比較的誠実な役を演じているイメージが強いクレッチマンが、本作品では現地の刑事役を丸坊主で演じており、エンドロールのクレジットを見るまで彼だとは全く気づかなかったのは驚いたところ。
裕福な人々が集う閉ざされた美しい孤島という、閉塞感を演出するには文句ないシチュエーションのもとで、そのタイトルにもなっていて、主人公等が過ごすホテルにも存在する外縁が存在しないかのように見せかけたプールと同様、現実と虚構の境界を曖昧にするかのような世界観で人間の欲望と転落を強烈に描き出しており、その世界観を表現するには眉毛がなくとも、いや眉毛がないからこそ前述のように魔力のような魅力を放つゴスの存在が欠かせないとともに、前述の二作同様、本作品においても彼女が文句なしの優勝であり、彼女にハマってしまうジェームズに、つい同情してしまうこととなる怪作。

この体験には意味がある。
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