うめまつ

コット、はじまりの夏のうめまつのレビュー・感想・評価

コット、はじまりの夏(2022年製作の映画)
4.4
私は愛されている、大切にされている、尊重されている、と日常的に感じられる事が子供の成長にどれほど重要なのかを、丁寧に繊細に描いている。「貴方には守られるべき価値がある」ということを、実感を伴って伝えることが一番大事な教育なのかもしれないな。その価値を見出せないと「他人も同じように尊重するべき」という事を理解できなくなってしまうかも知れない。それはとても恐ろしいことだと思う。

9歳にして私の100倍くらい思慮深い顔をしているコット。綺麗な目は悲しみに翳り虚無を映して沈んでいる。無邪気さを全て短い人生の道のりに落として来たように見える。口数も少なく空気の隙間を細い針で縫うように話す。そんな彼女が親戚の家で過ごすひと夏の記録。連れて行かれた先で車のドアが開いて、出迎えてくれた叔母さんの笑顔を見た時心底ホッとした。この人なら大丈夫、と観客に一瞬で分からせてくれる温かさと労わりに満ちていた。特に劇的は変化は描かれない。コットは遠慮がちな少女のままだ。でもだからこそ最後の行動には胸を打たれる。一生分の勇気を振り絞ったことがわかるから。ラストシーンで同じ台詞が2回繰り返される。その2つ目の響きが今も耳から離れない。

身体を丁寧に洗うこと/髪を100回梳くこと/常若の国の冷蔵庫/クリームサンドビスケット/黄色のワンピース/牛に粉ミルク/夜の海と沈黙/秘密の井戸

感情の流れ的にも映画の作法的にも予想できる事しか起きないのに、鑑賞後は深い余韻に包まれる。絵本にして身近において置きたいような真心と誠実さに溢れている。(絵は酒井駒子さんを希望します) 『赤毛のアン』と『西の魔女が死んだ』を思い出しながら見ていた。どちらも未来永劫大好きな物語だ。これからはその並びに本作も加えたい。
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