柏エシディシ

コット、はじまりの夏の柏エシディシのレビュー・感想・評価

コット、はじまりの夏(2022年製作の映画)
4.0
原題はQuiet Girl
彼女の行く末に希望と祈りを込めたような邦題も素敵だ。
家族や姉妹たち、学校。たくさんの人達に囲まれていても何処にも自分の居場所がない。
黙り込む事で自分を守ってきた少女が、親戚夫婦の農場で過ごしたひと夏。
彼女にとって、その時間はかけがえの無いものとなる。
子供たちを扱ったドキュメンタリーを中心に手掛けている女性監督の長編劇映画初作品という事だが、数十年前のアイルランドという舞台設定に収まらない今日的な問題を静かに、力強く指摘している。
子供を1人の人間として敬意を持って受容し、慈しむ事。
日々の生活を丁寧に過ごす事。
風の揺らぎや光の柔さをスクリーン越しにでも触れられそうな撮影の美しさ、コットを演じたキャサリン・クリンチの佇まい、あまり馴染みでないアイルランド語の響きも心地好い。
映画館で観て本当に良かったな…と思える映画は、もちろん大画面大音響が映える所謂ブロックバスター系の映画は勿論だけれど、こういう静かで、日常で見逃してしまいがちな小さな機微やささやかな心の揺らぎを掬い取る様な作品に触れた時にも強く感じる。素晴らしかった。
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