ひでG

ミツバチと私のひでGのレビュー・感想・評価

ミツバチと私(2023年製作の映画)
4.3
今年の映画観初めは武蔵野館。予告編とFilmarksユーザーさんのレビューと
あとは映画ファンとしての勘でチョイスしました。
結果は、素晴らしい出逢い!今年もまた
多くの良き映画との出逢いが待っているだろうことにワクワクさせてくれる最高の初め事でした!

スペインのバスク地方の懐の深い自然の中、「自分は何なんだろう。」と、自身の性認識が定まらず苦しむ1人の子どもを丁寧に、丁寧に描いています。

トランスジェンダーの青少年という題材は近年でも多くの名作があります。すぐに
思い出すのは、「クロース」のルーカス・ドン監督の「Girl/ガール」。15歳のバレリーナを目指す主人公の心と大きく隔たってしまった自身の肉体の葛藤。映画のラストは手術を決断した彼女。まだまだ苦悩は続くでしようが、方向を決められる年齢の物語でした。

それに対して、この映画のアイトールはまだ8歳。髪が長くし、中性的な服装をしている。プールに行くことを頑なに拒否し、
自分の居場所が見つからず、絶えず不安定な気持ちでいる。だが、年齢的にそれを言語化することができないのです。

そんなとても深刻なテーマの作品ながら、描かれている場面は、アイトールが兄弟3人と母親とで訪れた母親の実家であるスペインのバスク地方ののどかな自然をバックに静かな描写が続いていきます。

特にアイトールがおばさんと育ているミツバチと触れ合ったり、一緒に裸で湖を泳ぐシーンは、主人公が心を解放していく様子に観客の気持ちも和らいていくとても良い場面です。

この映画の非凡さは、ひとりのジェンダーフリーの子どもに対する周りの対応がステレオタイプでなく、とてもナチュラルなところにあると思います。
冒頭、父親は、アイトールが学校でいじめに遭っていることを激怒し、「乗り込んでやる!」といきり立つ。
母親もある程度、子どもの希望を尊重し、話を聞こうとする姿勢は見せている。
2人とも完全なダメ親ではない。でも、彼の芯の苦しみには耳を傾けてこなかった。
アイトールの悩みを知ってからも、それを受け入れることができないのです。

そんなクライマックスにある人物が彼女(彼)の名前を叫ぶ。「ルチーア!」と。(この場面はもう堪らず、初泣き😭でした)

母親が取り組んでいる彫刻というモチーフもジェンダー問題と絡み合って観客の思考を刺激してきます。心を持たない身体とは何かと、、

監督は本作がデビューだそうですが、人々の弱さや脆さに寄り添った素晴らしい次作を期待しています。

本当に良い作品で映画yearのスタートができたことをとても嬉しく思います。(僕のチョイスもさすがや!😅)
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