戦国時代でも江戸時代でもない、平安・鎌倉の黒澤時代劇。北陸の山峰の簡素な風景と、名優たちの迫力がタイムトラベルさせてくれる。
すべての役者を食うエノケン存在感。大河内傳次郎、志村喬といった稀代の俳優に囲まれながら、その檻からひとりだけ脱走している。
単にキャラクターの力ではない。役者とは何か、芝居とは何かを教えてくれる。
映画は逃亡であり、逃亡劇こそ映画への誘い。日本映画は歌舞伎や能などの芝居小屋の後を継いだ芸術。伝統芸能の良さを背負い、新しい時代を切り拓く盟主である黒澤の意気込みが感じられる。