パイルD3

ゴッドランド/GODLANDのパイルD3のレビュー・感想・評価

ゴッドランド/GODLAND(2022年製作の映画)
4.0
久々のシアター•イメージフォーラム、雨の宮益坂は、道玄坂と同じくYOUは何しに日本へ?系の方がザワザワ、
坂を上がり切ると、このあたりは青学の学生さんがゾロゾロ、私はスルスルとイメージフォーラムへ

観るのはアイスランド映画「GOD LAND ゴッドランド」、まずオリジナルも日本版もティザーの写真が気になるし、予告編見たら思わず見入る緊張感、これは観なくてはと、勝手に思い込んで渋谷へ向かった次第。

アイスランド映画って「レイキャヴィク•ホエール•ウォッチング•マサカー」という、何故か裕木奈江が出演していたポンコツホラー映画と、何ヶ国か合作の羊ちゃんホラー映画の「LAMB/ラム」くらいしか観たことがなくて、なんともイメージがゼロに近かったのですが…

但し、これはアイスランド映画のひとつのスタイルを見せた異色作として、今後も記憶される一本になると思います


【ゴッドランド】

《2つのタイトル》

いきなりタイトルが2つ出る。
デンマーク語とアイスランド語によるもので、共に「Volada land=悲惨な土地」という意味らしく、英題の神の土地どころでは無い。
アイスランドの極寒の冬を経験した昔の詩人が、その地への呪いをこめて例えた言葉だという。ストーリーの根幹となる、言語の違いによる歪みを表わす重要なキーワードでもある。
そんな不穏な災厄の地に赴任する聖職者の物語…

19世紀末、デンマークの若い牧師(エリオット•クロセット•ホーヴ)が、司教から伝導師の修行として、アイスランドの山間の奥地にある小村へ行き教会を建てて信仰で人々に安らぎを与えよという使命を与えられる。

デンマーク語とアイスランド語の解る通訳と、アイスランド人の左官技術を持つ道案内役の人夫数名を引き連れて未知の土地へと旅に出る。

まず、乗馬を教えるガイド役の年老いた男(イングヴァール•E•シーグルズソン)は、ことあるごとに牧師とぶつかるが、初対面の若き牧師を見て開口一番アイスランド語で口にした《デンマークの悪魔め》という一言が、皮肉にも後々現実になる。

通訳以外の雇い入れた連中と言葉が通じないことに激しいストレスを露わにする牧師の、若さゆえのイラつきと、聖職者にあるまじき偏見、差別意識、意外とヘナヘナで気持ちは折れやすいし、同情の余地はほとんど無いくらいキャバが狭い。既に神に見放されたようなところがある、リアルに描きこまれた主人公としては好感の薄い小人物なのだ。

更に予期せず起こる事態への対応力の無さから、観る者は、正に原題にある“悲惨“の一端を目の当たりにすることになる…

【古いカメラ】
19世紀当時の、感光剤に銀塩を使った湿板法と言われる撮影方法の旧時代カメラが登場する。クラシック感がおしゃれながらも、顔や身体を暫く動かさないルールで撮影するタイプで、いちいち登場人物たちが正面を向いて神妙な顔つきで整列する姿が印象的だ。

【視点と映像美】
その過酷な旅の過程を見せる前半と、辺境の地に辿り着き、村人たちと接点を持ちながら教会を建てて、恐ろしいトラブルが起こる終幕までの、人々と、季節、時間の流れを、緩すぎるほどの独特の間合いで見せる。
人間への視点は極めて残酷なものを感じさせる

チョッと見たことのない雄大荘厳なアイスランドの雪原や火山、谷間といった大自然の景観の中に、人間が点景として描かれる映像が圧巻。
これには一気に呑み込まれた…


【監督フリーヌル•パルマソン】

監督フリーヌル•パルマソンはアイスランド生まれの39歳、これが長編3作目。
デンマークに長く住んでいて、二つの国での生活を経験して、歴史の中で両国間において互いに相容れないもの、ディスコミニュケーションの存在を描きたかったようだ。
当時、例のカメラで殉教者によって撮影された数枚の残された写真に触発されてストーリーの骨子を組み立てたらしい。

【犬】
また、この映画でも誰にでも寄ってくるワンコちゃんが、素晴らしい存在感を見せる。飼い主はガイド役の屈強そうな老人で、この組み合わせは先日観た「SISU シス」にそっくりだった。
気になっていろいろ調べたら、なんと2021年のカンヌ映画祭で「Canine Cast=犬キャスト」のパルムドッグ賞を受賞したようだ。
そんな賞があったとは知らなかった。笑

がんばったんだから
美味しいものを食べさせてあげてよね


《映画の中で初めて聞いた一言》
「口を閉じないでキスして」と村娘(ヴィクトリア•カルメン•ゾンネ)が言うところはドキッとした

※この一言に少し加点
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