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マネーボーイズのnetfilmsのレビュー・感想・評価

マネーボーイズ(2021年製作の映画)
3.7
 フェイは(クー・チェンドン)は恋人のハン・シャオレイ(リン・ジェーシー)と同棲しながら、体を売って田舎の両親に仕送りを続けている。彼は男娼であり、相手も同性だ。都市の生活はそれ相応の金が掛かるのだが、シャオレイはフェイに安定した生活を分け与える。何だか今年公開された鈴木亮平と宮沢氷魚の『エゴイスト』に非常によく似た始まりだ。2人は互いの身体を求めながら、男娼のフェイは決して絶頂には達しない。客に集中したいという。フレームの中で1人ぼっちになったシャオレイの姿が寂しそうだ。田舎の家族はフェイからの金を当てにしながらも、彼が同性愛者であることは一族の恥として受け入れていない。ある日、フェイが顧客から暴行を受けたことを知ったシャオレイは、その男を見つけて叩きのめした。しかし、その男の部下たちが報復のためシャオレイに襲い掛かり、脚に後遺症の残るダメージを負う。程なくしてフェイとシャオレイの同棲生活は終わりを告げる。それから5年後、フェイは男娼として違う都市で羽振り良く暮らしていた。ようやく貯金が出来、亡き母にも最愛の姉にも何不自由ない生活をさせられると思った矢先に戻った故郷で、親戚からの手荒い歓迎を受ける。

 昨年末に公開された『シスター 夏のわかれ道』でも書いたが、中国人の同族意識は極めて強く、男尊女卑的で、LGBTQ+への理解がほとんどない中年男性がいて大変苦しい。日本でも必ず面倒くさい親戚のおじさんは1人はいるが、中国の面倒臭さは日本の比ではない。フェイもよく彼の罵声を浴びながら最期まで座っていられたねと感心してしまったが、田舎の早く異性と結婚して子供、と言っても女の子ではなく、絶対に男の子を産めという同調圧力には絶望しかない。しかもフェイの姉はこんな老害丸出しのおじさんの意見を常日頃、浴びるように聞いているのだから真に同情してしまう。田舎のムードに耐えかねてなのかここではないどこかを夢見てなのかはわからぬが、同郷の幼馴染ロンがフェイに憧れて都会の生活に参入する。一見華やかで洗練されているかに見えた兄のようなフェイがほどなくしてこのような性産業の中心に身を置いていることを知り、ロンは絶望する。2人が今生の別れのような激しい喧嘩を繰り広げた後、1人歩くロンの後ろから静かに彼の横を歩くフェイの表情が息を呑む。相対することのない2人の視線、然しながらその伏し目がちな2人の目線はもはや故郷という退路を断った2人の決意表明にも見えて来る。

 その後のドラマチックな展開はあえて説明しない。私には中盤の並び歩く2人の退路を断つ表情の揺るぎなさに心底参ってしまう。クライマックスの連結トンネルにはホウ・シャオシェンの『ミレニアム・マンボ』を真っ先に思い出した。 オーストリアに渡り、ミヒャエル・ハネケの薫陶を受けた若き韓国人作家C.B. Yiのデビュー作であり、韓国ではなく台湾で、台湾人俳優を使い撮影されたという。
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