うめまつ

夜明けのすべてのうめまつのレビュー・感想・評価

夜明けのすべて(2024年製作の映画)
4.6
この映画が終わらなければいいのにな、と思った。大好きな作品でもあまりそうは思わない。どんな特別なラストシーンが用意されているのか期待する気持ちがあるからだ。でもこの物語にそんなものは必要なくて、それを裏付けるように良い意味でなんてことない終わり方と、ただカメラが回ってただけですよ、みたいなエンドロールを見せてくれたので監督への信頼感が絶大になってしまった。この物語は明日も明後日も着実に続いて行く。

誰かと永遠に別れたり、心や身体に痛みを抱えたり、出来ないことが増えたり、環境が変わったりしながらも、また誰かに出会ったり、知らない世界に触れたり、新しい感情を覚えたり、笑ったり泣いたり塞ぎ込んだりそれでもお腹が空いたりしながら日常は続く。こんな苦しみが続くくらいなら明日消えてもいいと本気で思えるのに、帰り道の月が綺麗なだけで泣きそうになったりする。でもそれでいいんだよ、とそっと隣で月を見上げてくれるような物語だった。

私も栗田科学で働きたい。社員の皆さんが「この会社のいいところは何ですか?」って質問されて困ってた時、横から割って入って良いところを列挙したくなった。とはいえ「やっぱり会社って人なんですよね」に終止してしまうんだけど、澄んだ水辺に綺麗な花が咲くように、優しい人達が集ってその柔らかい心を分け合いながら働いてる。でもそれも特別な事というよりは、あの環境に身を置いたらみんな元々持ってる優しさが引き出されちゃうんじゃないかな。社長の人徳も去ることながら、主人公二人を労ってくれていた先輩社員の皆さんにもきっとそれぞれ事情があり(事情のない人なんてそもそもいないのだけど)、思いやりの連鎖が自然に生まれているんだろうな、と思わせるあたたかさがあった。その寄り添い方も大袈裟じゃなく「みんな色々あるよね」くらいの温度感でやり過ごしてくれるのがまた良い。

自分自身の抱える苦しみはどうにもできないけど、隣の誰かの苦しみをほんの少しなら助けることができる。実際にできるかどうかは重要じゃなくて、そう思えることが希望という星になって、目の前の暗闇を小さな星空に変えることができる。そうすればなかなか明けないこの夜も、大切な時間にできるのかもしれない。

病気のランク/休日と散髪/自転車の贈り物/交代する北極星/差し入れのたい焼き/ブカブカとピッタリの手袋/後ろ前ヘルメット/移動式プラネタリウム/夜についてのメモ
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