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星くずの片隅でのmasayaのレビュー・感想・評価

星くずの片隅で(2022年製作の映画)
4.4
街角から一つまた一つと灯りが消えていき、未曾有のコロナ禍が追い打ちをかける。大きなものが幅を効かせる。取るに足らない私達など、神様でさえも見逃すだろう。でも、そんな時代だからこそ、人としての高潔さと隣人への優しさを。温かさと痛みが入り混じった感情に包まれる。

かつての国際都市香港は衰退が止まらず、資産がある人から海外に移住して残された人達は貧しさと閉塞感に包まれている。さらに感染対策と効率重視で人の心が荒ぶ。そんな中ぽつりと吐かれた「世の中はひどい、でもそれに同化するな」の台詞がひとつ、物語を灯台のように明るく導く。

路地裏の小さな清掃会社を営む男と老いた母、転がり込むように現れたシングルマザーと小さな娘。世界は大きくて複雑で、手が届く範囲程度の幸福を求めるのに、弱き人々はいちいち手を汚し、それについて傷つかなければならない。時に冷徹で、時に優しい映画の眼差し。

不器用で雄弁でもない登場人物達の代わりに、安物の扇風機や、再利用するために干されたサージカルマスク、車のシートに貼られたキラキラのステッカーと言った、その人の優しさの記憶をとどめた無機物たちが代わるがわるに映し出される。その度に心を掴まれる見事な演出だった。

香港人ばかり出てくる映画なので、広東語の会話の掛け合いで語尾が伸びる感じが優しげで気持ちよかったな。本当にモウマンタイばっかり言ってるし。

最後になったけどこの映画で絶対言わなきゃ始まらないのがヒロインのキャンディ役のアンジェラユンさんでしょう。抜群のスタイル、アイコン的な可愛さと芯の強さを併せ持つルックス。眼光の鋭さ。吉岡里帆さんに見える時もあり、佐藤千亜妃さんに見える時もあり、要は素晴らしい。

そういえばキャンディが最初の方で「よろしくお願いしまーす」みたいに日本語混じりで挨拶してたんだけど、そんな風に香港では今でも日本語がポップさ軽快さを表すサインになってるんだろうか。話し相手にも伝わってるってことだもんね。
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