たく

碁盤斬りのたくのレビュー・感想・評価

碁盤斬り(2024年製作の映画)
3.5
白石和彌監督の初の時代劇ということで期待して観たけど、いまいち刺さらず。序盤での格之進と源兵衛のホモソーシャル感に引き込まれたものの、草彅剛の演技に人間味が全く感じられず、最後まで物語に入り込めなかった。彼は「ミッドナイトスワン」も含めて過大評価されてるように思う。その反面、清原果耶の和服姿が抜群に似合ってて、落ち着いた所作とともにさすがの存在感だった。己の信条にストイックに拘る父親を支える慎ましやかな女性という、日本男児の時代錯誤な女性像を陳腐に感じさせないのがすごいね。

藩を追われ、江戸の長屋で娘のお絹と暮らす貧乏浪人の柳田格之進。彼が囲碁の達人で、同じく囲碁の強者として知られる商人の萬谷源兵衛との対局をきっかけに交流を深めていく。元は強欲な商人だった源兵衛が、格之進の囲碁の勝負に対する嘘偽りの無い真摯な態度に感銘を受け、自分の商売方針を清い方向に転換させるあたりが微笑ましい。自分としてはこのあたりまでの二人のイチャイチャ感がクライマックスだった。

ある日、格之進との囲碁の勝負を終えた源兵衛の部屋から源兵衛が取引で受け取った50両が紛失し、その嫌疑をかけられた格之進が切腹しようとするのが唐突過ぎる展開。その直前に、格之進が藩を追われた原因となった冤罪事件の真犯人が判明することで、本作は2つの冤罪を清算するために実直な武士が奔走する、いわゆる「武士道精神のストイックな体現」というお馴染みの構造になってた。

お絹は全ての日本人男性の願望である「慎ましく一歩下がって男を支える女性」の象徴みたいな存在で、時代劇だからこそ許される古めかしいキャラだけど、その違和感を感じさせない清原果耶が改めてすごい。彼女が父親のために吉原に身売りし、大晦日までに50両を返せなかったら娘に客を取らせるという前フリがあるにも関わらず、真犯人の兵庫との囲碁の勝負で賭けるのが50両じゃなく兵庫の首というのが、格之進どんだけサイコパスなんだよと白けてしまった。

ラストのお絹の祝言で、やっと格之進から解放されたかに見える幸せそうなお絹の姿を見た格之進が、過去に迷惑をかけた人のために一人旅立つ幕切れに僅かな救いがあった。タイトルがそのまんまなのはクスッと来た。寝取られ夫の復讐という図式は「武士の一分」があって、動機が何だかショボいんだよね。
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