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窓ぎわのトットちゃんのKiwiのネタバレレビュー・内容・結末

窓ぎわのトットちゃん(2023年製作の映画)
4.7

このレビューはネタバレを含みます

リアル映画館の良い席で鑑賞。素晴らしかった!
原作のエピソードを上手につないで、その味わいを丁寧にすくいとって作られたアニメ。ひとつひとつのシーンが良かった。(全部を書くと長文になりすぎるので諦める。)黒柳さん本人のナレーションも、良かった。

「この世界の片隅に」と違ってヒロイン(トットちゃん)のビジュアルはあまり好きじゃなかったけど、作品としては甲乙つけがたい傑作。描かれる世界の幅、そして心情表現のアニメーションの表現という点では本作のほうがインパクトが強かった。クリームキャラメルが巨大すぎるとか、普通のアニメのシーンで時々モノの大きさ間違ってるよねと突っ込みたくなるシーンがあったけれど、敢えてそうしたのかも?

やすあきちゃんに最優秀助演男優賞をあげたい。公式サイトのキャスト紹介にやすあきちゃんがいないのは理解できない。タイトルを「トットちゃんとやすあきちゃん」にしてもいいぐらいなのに。少しハスキーな声が、さまざまなニュアンスのこもった独特の喋り方が、たまらなく良かった。「ズルしないでよ!」「ズルなんかしてないもん!」には、彼らの成長が強く感じられて、とても心を打たれた。

アンクルトムを借りた帰りの駅のシーンが印象的に描かれ、暗い予感が宿る。彼が何と言ったのかは観る者に託される。借りた本をパパが読んで「ぼくのヴァイオリンで軍歌は弾かない」と決心する流れも上手。そして、悪夢の劇伴にDeep River が選ばれたことに震えた。

やすあきちゃん。クリスチャンだったんだね。だからヒヨコが死んで悲しむトットちゃんにあんな優しい言葉をかけてあげられたのかもしれないね。トットちゃんがそのことを思い出して泣く姿に、返せなくなったアンクルトムを「大事なものなんだろう?」と渡してくれる小林校長先生の胸に顔を埋めて泣く姿に、もらい泣き。聡明でやさしくて強いやすあきちゃん、天国ではきっと自由に走り回っているよ。

揺るぎない信念に裏付けられた教育と、友達と、死に接する経験。それらを通して成長する少女の姿。日本が戦争へ突き進んでいく時代背景も、日常の風景としてきちんと描き込まれている。

11歳年下の妹を抱いてリンゴの花咲く青森へ疎開する列車のシーンをラストに持ってきたのも巧み。「きみは本当はいい子なんだよ」という有名なフレーズが、静かに心に沁みて来た。

原作未読の方はぜひ原作も読んで、改めてこのアニメ化のうまさに唸っていただきたい。
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