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キャロル・オブ・ザ・ベル 家族の絆を奏でる詩のmasayaのレビュー・感想・評価

4.1
東欧の小さな町。ウクライナ、ポーランド、ユダヤの3家族が肩を寄せ合うように生きる家。戦争は国を持たぬ民族から全てを奪っていき、残された娘達の命は一人の女性に託される。多文化を尊重し、誰もが安心して生活できる世界を守る意志に満ちた、民衆の為の歴史大作。

舞台となる当時ポーランド領の国境近くの町・スタニスワヴフは、ソビエト、ドイツ、ソビエトと三度までも全体主義者の侵略を受ける。その度に生命を脅かされ隠れるように生きる暮らし。爆弾や銃弾が飛び交わなくても、占領下に平和など存在しないことをまざまざと見せつけられる。

見つかれば連行される危険に晒された子供たちを勇気づけたのはそれぞれの民族の音楽や祭日の伝統行事。弱き者が、絶望に最後まで対抗する為の文化の偉大さ。文化を否定することはその人の生を否定することで、どんな力もそれだけは遂に出来ないのだろう。

日常を命がけで守ろうとする闘いで、守れた命と守れなかった命の残酷な紙一重があった。だからこそ、生きている者が語り継がなければいけない。その平和は何があっても守り切らなくてはならないことを。

「ウクライナ独自の文化?そんなものがあると思っているのか?」赤軍の兵士が尋問でそう言って嘲笑う場面がある。これはウクライナがドンバスとクリミアを奪われ、更に全面侵攻を受けるまでの戦間に作られた映画。全ての要素が現代に繋がっている。
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