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ガッデム 阿修羅のnetfilmsのレビュー・感想・評価

ガッデム 阿修羅(2022年製作の映画)
3.5
 18歳になったばかりのジャン・ウェン(ホアン・シェンチョウ)は自分が物語を書き、親友のシュー・ユエンシン(パン・ガンダー)が絵を描く漫画『怒れる零(ゼロ)』を創作することに喜びを感じていた。まずこの漫画のタッチが何とも言えない劇画感というか、現在の世界線の漫画のタッチではなく、明らかに昭和の少年漫画で台湾の漫画文化に普通にビビった。だがジャンは事業を展開する父の勧めでアメリカへ行くことが既定路線だった。別居する母に一緒に住みたいとこぼしてもいつも返事はおぼつかない。黎明(リーミン)アパートの再開発を取材しているメイ・ジュンズー(モー・ズーイー)は自分のことをいつも「バイ菌」と紹介する。アパートの中庭で市役所のフー・ジーセン(ライ・ハオジャ)と待ち合わせすると、そこに住人のリン・ジャーリン(ワン・ユーシュエン)が戻ってくる。リンは天才的な数学の才能を持っていたが、屋台を引く貧しい母と二人暮らし。大学進学をあきらめ、売り専のアルバイトで金を稼ぐ。広告業界でゲームのPRを担当するビータ(ホァン・ペイジァ)は婚約者からの電話にいつも苛立っていた。残業続きの自分とは距離ができてしまい、婚約者はオンラインゲームに夢中だ。あの夜も残業のため彼と夜市で待ち合わせをすることになっていた。

 今作は台湾で起きた無差別殺傷事件の報道記事に触発された青春群像劇に他ならない。6人の運命は、ジャン・ウェンの改造銃が引き金となって、結びつけられる。もし、彼らがあの時、別の選択をしていたら、悲劇は起きなかったのか。運命のいたずらか、人間の内に巣くう「阿修羅」が悲劇を引き寄せた様子が明らかになる。ジャン・ウェンとシュー・ユエンシンはいわゆるゲイであり、ずっと一緒に居たいと互いに思っているが、ジャン・ウェンのブルジョワジーの家が2人の仲を引き裂く。ここでも個人のここではないどこかへの希求は家族の敷いたレールに乗せられ身動きが取れなくなり、華麗なる一族のジャン・ウェンの凶行が導き出される。18歳の誕生日に無差別殺人をした彼の背景に迫る様子はなかなか真に迫るものなのだが、私にはジャン・ウェンの決断までのロジックがどうにもボンボンの甘ちゃんにしか見えなかった。然しながらその後のロウ・イーアンのクリストファー・ノーランばりの時系列シャッフルとノーランも絶対にやらないであろういわゆる円環構造による登場人物シャッフルにはかなり唖然とさせられた。バーチャルと現実との狭間に若者たちの苦悩が滲むと言えば聞こえは良いのだが、これは幾ら何でもやり過ぎだと思う。メンヘラこじらせた若者たちが人々の言葉に応答し、絶望するのは理解するのだが、映画は社会に復讐をするが誰も殺さない的な応答に無差別殺傷事件の遺族の率直な反応が知りたい。
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