スワヒリ亭こゆう

PERFECT DAYSのスワヒリ亭こゆうのレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
5.0
役所広司さんがカンヌ映画祭で男優賞を受賞した作品です。カンヌから大分、月日が経ってからの公開だったので待ち遠しかったです。

役所広司さんは僕が初めて好きになった俳優さんです。子供心に役所広司さんを好きになった自分の見る目を褒めてあげたいです。
ヴィム・ヴェンダース監督の撮る本作では役所広司さんは出ずっぱりです。
2時間保たせられるのは今の日本では役所広司さんぐらいだと思いますよ。
素晴らしい映画に仕上がってます。

本作の主人公・平山(役所広司)が行なっているトイレの清掃人。【THE TOKYO TOILET】というプロジェクトは実際にあって、クリエイターによりデザインされた画期的な公衆トイレを作ったみたいです。それに伴って作られた映画でもあるみたいです。
なのでヴィム・ヴェンダース監督作ですが製作はほぼ日本なんですね。
それなのに逆輸入みたいな感じで公開されるのは残念です。
ヴィム・ヴェンダースの様な世界的な監督が日本映画でメガホンを撮った!と銘打って公開すればいいのに。作品が素晴らしかっただけに勿体無い。

本作は平山の日常を淡々と描いています。
ほとんど台詞がないと言っても良いぐらい、途中までほぼ台詞ないです。平山という人物を淡々と描いて行く上でヴェンダースは説明台詞を一切省いています。本当に気持ちがいいぐらいに無かった。
台詞がない分、映画を観ていて思考が止まる事は無いです。
平山の心情、カットの美しさ、演技の間の中に生まれる反応。ずっと観ていられる映画です。
平山という人物が序盤からエンディングにかけて段々と彩りが加えられていくような感じ。
それが堪らなく贅沢な映画だと思いました。
台詞で進むストーリーが多い昨今、本作の様に情景や演技や台詞の間を楽しむ事が出来る映画は観ていて飽きません。
どんでん返しばかり期待せず、こういう淡々と進む普遍的な人間性にフォーカスした映画は美しいです。

平山の姪っ子が登場して平山という人物の日常の潮目が変わりだすのも面白いし、そこで出てくる平山の具体的な人間性。
姪っ子の母、平山の妹(麻生祐未)とのシーンは目頭が熱くなりました。

もうひとつ、ルー・リードなどの音楽も良かったです。『トレイン・スポッティング』のサントラで僕が最も好きなルー・リードの『パーフェクトデイ』が本作の主題歌なのも良かったです。

ラストシーンの役所広司さんのアップの表情とニーナ・シモンの『feeling good』が流れるカットも、とても印象的でした。
トイレの清掃人の何が『パーフェクトデイズ』なのか?ヴェンダースは説明はしてくれません。
ストーリーでは分からない。けれども役所広司さんの演技が表情が表している。具体的な何か?ではなくても良い。
人間の人生を切り取って2時間で観せるのが映画。
人間を説明するのではなく、人間を描くとこういう作品になるんです。人生とは何なのかを描くとこういう作品になります。
それが心地良くて贅沢な映画だと思いました。
ダメなところが全く無い完璧な作品だと思いました。