ごんす

落下の解剖学のごんすのレビュー・感想・評価

落下の解剖学(2023年製作の映画)
4.3
転落死した父の死体を視覚障がいのある11歳の息子が愛犬とともに発見。
捜査が進むにつれ他殺の可能性も否定できないということになり作家である妻にも夫殺しの容疑がかかる。

裁判は真実を追求する場所ではないというのは是枝裕和監督の『三度目の殺人』なんかを観ても感じたし先日観てみたジャスティーヌ・トリエ監督の『愛欲のセラピー』の主人公の印象が作品が進むに連れ変わって見えてくる所なんかが本作と通ずる様に感じた。

容疑をかけられ「私は殺していない」という妻に対して弁護士が言う「そこは重要じゃない、人の目にどう映るかが重要」というのも観客に観られるという映画そのものについても言えるように思う。
この辺りは法廷モノとして面白く、裁判の感じもフランスってこういう感じなのかな?と観ていて面白かったけど尺も短くなく台詞量も多く感じたのでとても疲れた。

しかし本作は夫婦関係や親子関係といった部分が非常に見応えがあった。
作家活動に忙しい妻と地元の教師をしながら作品が完成させられない夫。
多くは語られないが息子の視覚障がいは事故が原因でそこから父親は家で息子の世話を中心の生活に変わった様子。

夫婦の激しい口論のシーンが見事だった。
男性側が「俺はこれだけ犠牲をはらっているのに!」というモードで挑んだ場合大抵は目も当てられないことになる。
演技とは思えないザンドラ・ヒュラーのスイッチの入り方に唖然とした。

真相はさておき観賞後に残る感想は息子は今後どの様に成長していくのかという部分。
離婚の親権争いとかと非常に似てる。
精神的に負荷かかりすぎ。
こういう子が早く大人にならざるをえなくなって無意識に我慢する子供時代を送りそうで辛い。
パルムドッグ賞に相応しい名演を見せた犬にも拍手。

自分は常々パートナーとの口論シーンや倦怠描写、家庭の不和や崩壊をテーマとして扱う映画は実人生に起こった時に狼狽えることのないようにワクチン接種的な意味で鑑賞を心がけています。
また、あの時の自分これじゃんと突きつけられ記憶の扉が開かれる効果もあるのでセラピー的なものとしてもやはり倦怠期モノや家庭崩壊モノは今後も定期的な鑑賞を心がけていきたいです。
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