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落下の解剖学のmasayaのレビュー・感想・評価

落下の解剖学(2023年製作の映画)
3.9
雪深い一軒家で突然夫が転落死し、妻が被疑者に、盲目の息子が唯一の証人になる。法廷闘争から徐々に見えてくる家族の肖像と、証言や物的証拠や録音された会話などでは到底辿り着けない真実の曖昧さ。この先はどうする。後は各々、信じたいものを信じるだけだ。

裁判で証拠として挙げられる一つ一つの事実は、それがいかようにも解釈が可能であることを示すだけ。夫婦喧嘩一つとっても、夫婦関係の致命的な終結とも取れるし夫婦の信頼感の表れとも取れる。言葉の些細なニュアンスの違いを追及する必要があるのに、母国語の違いがそれも不明瞭にする。

このラストで本当の意味で解決したとはとても思えないのだけど、母と子をはじめ、裁判に関わった人たちの人生は続いていく。法治国家というか現代社会のけじめだけをとりあえずつけて、割り切れないまま進む。日常を生きるすべての人と同じように。
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