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落下の解剖学のmnsのレビュー・感想・評価

落下の解剖学(2023年製作の映画)
4.5
タイトルが秀逸。この「解剖」は「落下」を物的証拠や状況証拠で腑分けする、という意味以上のものがあった。つまり「落下」の原因となった可能性のある諸トピック、夫婦間の差異(母語、才能、家庭での役割分担の比率、メンタルの安定度、それぞれが起こした過ちに対する認識…)に加えて、その中で創作と作者の連関、原案と翻案…といった何かモノを創り産み出す人間を取り巻くテーマにまで言及する、より多義的な、広がりを持った意味合いでの「解剖」だ。だからこそ現地仏でのシネフィルをターゲットにしたポスターでは、笑顔の創作者夫婦2人の写真が使われているんじゃないかと思った。

ここで『落下の解剖学』の物語と、作り手の監督とそのパートナーを安易に結びつけてしまいそうになるが、これをすると法廷で小説の記述を引用し、それを被告人が有罪である根拠としようとした鼻につく検察と同じことをしてしまうから避ける。ただ観客に、この作品が作り手自身への自己言及性があると思わせかけて、それがいかにナンセンスな仕草であるかを自覚させる、までを想定していたとしたらクレバーすぎるし、監督脚本コンビ好きになってしまうよ〜

視覚的にはそれほど変わり映えのしない映像が2時間半続くけど、たび重なる様々な角度からの誰かの主観の上塗りにまんまと踊らされていたので飽きずに観れた。あとシンプルにザンドラ・ヒュラーが強すぎる。母親の包容力、夫より成功したことによる傲慢さ、学生への薄ら下心、人を惹きつける魅力、全てに説得力があり、主人公のパーソナリティが徐々に立体的に見えてくる。あとはなんといっても録音の回想で、血管浮き立たせて激昂するのが圧巻だった。始終ビニール袋ガサゴソ・ポップコーン貪りのおっさんも流石に静かになっていた。
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