ごんす

愛にイナズマのごんすのレビュー・感想・評価

愛にイナズマ(2023年製作の映画)
4.6
石井裕也監督作品の好きな部分が詰め込まれていた。
多くの作品でナメられている人が登場する。
そしてナメてくる奴、“こいつのことは軽く扱って良いんだ”という態度の人物が強烈。
助監督、プロデューサーの不快感が特に凄かった。
助監督の「若いっすね」は思い出しただけで腹立つし「人間よく見て」とか言ってきたプロデューサーは最終的にちょっと意味がわからないことを伝えてきて驚く。
石井裕也監督自身がこのようなことを経験したのかと考えてしまう。

しかし弱者から搾取する構造が長い間システム化されてきているのはこの業界だけではないのが映画を観てるとビシビシ伝わってくる。
主人公花子が撮ろうとしている映画に充てられた予算1500万円。
この1500万円という額が劇中何度か登場することによって観客が様々な思いを巡らせる仕掛けになっていて面白い。

なかったことにしたくないと思う気持ちも石井裕也作品からは度々感じる。
花子は自ら飛びおりそうな人を見て「やるなら早くやれよ」というような野次馬の声を聞く。
それは実際にあったことで花子は映画にしようとする。
そもそも花子が自身の家族の映画を撮りたいという気持ちもいなくなった母は確かにいた、それをなかったことにしたくないという思いが根底にあるからだと思う。
“再び家族の絆を取り戻したい”とか“人の命について”とかではなく、もっとエゴイスティックな感情で動いているのが石井裕也作品の主人公らしくて魅力的。
前半から面白かったけど池松壮亮と若葉竜也という化け物が中盤ぐらいから登場するのも最高。
ぼんやりとしていた家族の輪郭が見えてくるような脚本が凄く面白かった。

中盤以降は登場しないクソ助監督の「リアルにやるのがリアルじゃないんですよ」みたいな言葉はアイツがあの場面で言うとムカつくがこの映画のリアルじゃない所、現実にはどうだろうと思うようなシーンは本当に良かった。
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