タケオ

グランツーリスモのタケオのレビュー・感想・評価

グランツーリスモ(2023年製作の映画)
4.0
-ブロムカンプが描き続ける、「異世界」でのアツい戦い『グランツーリスモ』(23年)-

 『第9地区』(09年)『エリジウム』(13年)『チャッピー』(15年)『デモニック』(21年)などの作品で知られるニール・ブロムカンプ。よくよく思えば、彼の作品の大まかなプロットはいつも同じだ。何気なく生きていた主人公が、とあるキッカケによりまるで勝手の異なる「異世界」でのサバイバルを余儀なくされ、やがて使命に目覚めていく。ひとつのテーマに固執する作家は数多いが、ブロムカンプもまたそのひとりであろう。
 本作は、SCEと日産自動車が主催するレーシングドライバー養成プログラム「GTアカデミー」が、ドライビング・シミュレーション・ゲーム『グランツーリスモ』のトッププレイヤー ヤン・マーデンボロー(演:アーチー・マデクウィ)を実際にプロのレーサーとしてデビューさせた実話に基づく伝記映画だ。SF映画を得意とするブロムカンプにとっては新境地への挑戦となるが、前述したような彼の作家性と題材の相性がとても良く、王道のスポ根物語として手堅くまとまっている。「レーサーになりたい」という漠然とした夢を抱いていた主人公が「GTアカデミー」という異世界に足を踏み入れ、逆境や挫折を乗り越えレーサーとして成長していくのだ。少年マンガのようなアツい展開を、奇を衒うことなく堂々とエモーショナルに描ききってみせるところに本作の強みがある。また、SF映画を得意とするブロムカンプならではのメカやガジェットへのこだわりが随所で顔を覗かせているのも良い。主人公のゲーマーならではのビジョンや戦略が可視化される演出も楽しく、他のカーレースを題材とした映画とはまた異なるオリジナルな味わいを生んでいる。
 ヒロインのキャラクターが「トロフィー」としてしか機能していなかったりと、いくつか気になる点もなくはないが、とまれ観るものの心を揺さぶる痛快娯楽エンターテインメントであることは間違いない。ブロムカンプが「アツい」映画の名手であることを再認識させてくれる作品だ。
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