スワヒリ亭こゆう

哀れなるものたちのスワヒリ亭こゆうのレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
5.0
映画に於いて人間が考えられるストーリーは出尽くしたというのを聞いた事がありましたが、本作を観て「そんな事ないんだ!」って事に驚きと嬉しさで興奮してます!めちゃくちゃ面白かったです。

ヨルゴス・ランティモス監督。面白いですね。全部の作品を網羅した訳ではないですが、僕が観た映画では全て面白いです。どこか松ちゃんの『VISUALBUM』の世界観にも似ている感覚があるかなぁと思います。
どういう事かというと基本的には笑いが基になっているんですが、笑わせようとは決してしない。
シリアスなストーリーの中に異物が現れる事で生まれる緊張と緩和です。
なので本作はコメディや喜劇といった映画ではなくて、僕の中ではSF寄りのファンタジー。でも語られるのは人間の尊厳、哲学。
本作の脚本を違う監督に渡したらホラー映画にもなり得る作品だと思います。そのぐらい複雑且つ多岐に渡ったストーリー展開のある映画だと思いました。

褒められすぎて、お前もか!ってツッコまれそうですがエマ・ストーンの演技には感服致しました。
子供の知能からどんどん成長していく様子が凄くて、表情の変化など後半につれて圧倒していきます。覚醒というのをひとつの映画の中で表現した素晴らしい女優だと思います。
本作のプロデューサーをエマ自身が務めている事は映画を観る上で知っておいた方が良いですね。
彼女が選んでこの役を演じているのは知っておいた方が現在では必要な情報だと思います。理由は敢えて、このレビューでは留めておこうと思います。

先程、SF寄りのファンタジーと申し上げました。
どういう意味かというと産業改革が始まった頃の話の様で、現在よりも進んでる技術もある。
謂わばパラレルワールドの世界観だと感じたからです。
ゴッド(ウィレム・デフォー)のキャラクターとベラの誕生秘話にはファンタジー要素が加わっている。そもそも僕はジャンル分けが嫌いなのですが、どんな映画かを他人に伝えるなら、そう表現するしかないぐらい斬新なストーリーな訳です。

原題『POOR THINGS』は「お気の毒」みたいな意味らしいです。
本作を観た感想が「お気の毒」だったら、凄い良いセンスです。
ただ本作で描いているのは人間の尊厳だと思います。人間のあるべき形から蘇生をして逸脱してしまったベラが主人公な訳です。
彼女が冒険の中で学び、気づき、人間に立ち返る。その時に周りを見回した時にベラがどう感じたか?という事が人間の尊厳についてだと思うんです。
そこに至るまでの彼女の奔放と成長。相反している様で人間を形成する要素として描かれたストーリーは素晴らしい出来事だったと思います。
逆にマーク・ラファロが演じたダンカン。弁護士として登場してベラを冒険に連れ出す道先案内人から、転落していく様がベラと対比になって二人の掛け合いは面白いですね。

映画を観ていて結末が見えないストーリーというのは、こうもワクワクさせてくれるものだ。というのを改めて知れた映画でした。映像に関しても文句のつけどころがない。色彩感覚やレンズの使い方など玄人受けもする映画だと思いました。
めちゃくちゃ面白い。