Fitzcarraldo

グリーンフィッシュ 4K レストアのFitzcarraldoのレビュー・感想・評価

4.2
LEE CHANG-DONG
RETROSPECTIVE 4K

イ・チャンドン監督デビュー作
オ・スンウクとイ・チャンドンの共同脚本

イ・チャンドンは映画人なのだと思い込んでいたのだが、もともとは小説家だということを『イ・チャンドン アイロニーの芸術』で初めて知る。さらに作家になる前は高校で国語を教えていた先生だったと…そんな経歴だったとはまたおもしろいし、映画そのものに加えて彼自身にも非常に興味がでる。

教師時代に演劇をやっていたとか…それもお兄さんがずっと演劇をやっていたからとインタビューで言ってた…演出しながら俳優としても舞台に上がってたとか…

42歳で映画監督デビューという遅咲き…
遅咲きもなにもその前に小説家として賞を獲ってるし、その後に脚本家としてシナリオの賞も取ってるし、十分すぎる才能をすでに認められてからの映画界入り。


物語の話を…


軍隊を除隊して故郷行の汽車に乗ったハン・ソッキュ演じるハン・マクトンは,汽車のデッキで気分転換に顔を出して風を浴びていると、そこへ前方の車両からスカーフが風に乗って飛んくる。そのスカーフがマクトンの顔に奇跡的に被さる。この一瞬のシーンがとても美しい…

そのスカーフを返そうと前方の車両へ向かうマクトン。そこへブレイキングダウンに出てきそうなイキった馬鹿者たちウザ絡みされているシム・ヘジン演じるミエ。

男子たるものここで助けなければ漢が廃る…当然助けに入るマクトン。さすがに3対1では分が悪くやられてしまう。

イキった馬鹿者たちは列車を降りて悠々と歩いていると、まだまだ生きた目のマクトンが後ろからやり返す。

田舎の風景が広がる駅から逃げるマクトンと追う馬鹿者たち。

導入のスカーフから好きな展開である。

鑑賞後、1ヶ月が経ってしまってるので、記憶はあまり正確ではないのだが…

このあと、唐突にスカーフの持ち主ミエと遭遇するのだが、ここの展開がちと強引だった記憶があるが、もう覚えてない。


一度見たら脳裏に残るほど特徴的な顔をしたムン・ソングン演じる暴力団組織のボスであるペ・テゴンが牛耳るナイトクラブで歌うミエ。ミエはボスが囲う情婦。

この組織の下っ端に30歳のソン・ガンホ。
本作がまだ映画2本目で、そんな売れてもないのかな?ただ、やはり目が彼に向いてしまう。


イ・チャンドン監督は,当時,劇団ヨヌの舞台『ピオンソ(蜚言所)』に助演で出演していたソン・ガンホを見出し,本作のパンス役に抜擢したという。

ソン・ガンホは後になって「この映画があったからこそ,今の自分がある」というほど超重要な作品だったと…この映画を通じて初めて映画演技について感じることができたと語ったという。

ソン・ガンホ出演作品にハズレなしと思えるほどの安定感と信頼度を私の中で築いてきた歴史の中で、この作品がスタートと本人が語るほどの初々しいものを見れるという喜びが大きく、ついニヤニヤしてしまう。

ただ低予算だからなのか、イ・チャンドンのデビュー作だからなのか、カメラを右へ左へパンするのがキツイ。見にくい。パンという撮影方法の成功例をあまり見かけないから、よっぽどでない限り使わない方がいいと前から思っているのだが…ものすごくゆっくり動かさないと、景色が横にブレて船酔いにあったように途端に気持ち悪くなってしまう。これは三半規管が弱すぎるのか…とにかくパンは苦手である。


ミエの車のバックミラーにぶら下がるガイコツのキーホルダー…とても懐かしい。私が小学生の頃か修学旅行とかでお土産に似たようなの買ったことがある。フラッシュバックするかのように一気に記憶が蘇り、懐かしく温かい心持ちになる。

失われていた記憶を瞬間的に蘇らせてくれると、諦めずに映画を見てきてよかったと思う。


後半にかけてのハン・ソッキュの芝居が神がかっている。素晴らしすぎる。基本的には家族思いで純粋で夢もなく童貞で、家族で小さな食堂でも開けたらいいなと何となく漠然と思ってるくらいの26歳のマクトンというキャラクター。

この純粋さ故に、兄貴思いが伝染して、目の前で兄貴が殴られているのが許せない。これは純粋さの純度が高ければ高いほど、見てられないし、耐えられない。

出所してきてすぐにデカい顔をするヤクザが気に入らない。ソン・ガンホ演じるパンスも寝返るし…

ということでブチ切れたマクトンはトイレで強襲するのだが…ここのシーンが圧巻!本当に素晴らしい演技。

あの狂気は…出せない。

殺った相手を和式便所の個室に運んでから、血で汚れた自分の手を和式便器の中に突っ込んで洗うところが…いやいやいブッ飛んでるよ!どう見ても、これはセットじゃなくてロケでしょ?!汚っねぇ便器の中に咄嗟に手を入れることできるかな?これアドリブでやってると思うんだけど…間違いなく神経を何本か切らないとできないだろ!いや〜素晴らしい!その覚悟と心意気に胸が締め付けられる。

この後、床に飛び散った血を、自らの手でモップがけするかのように床を洗って…さらにその手で顔を洗う…すごいんだけど…

潔癖症ではないが、私なら監督からヤレと指示されてもできそうにない。撮影前にいくら綺麗にトイレを掃除したとしても…便器の中に手を入れるのは、その水で手を洗うのは…さらに、その手で顔を洗うのはできないよ!

ここだけでも見る価値ある!
潔癖症の人は見れないかも…

ここからのハン・ソッキュはマジで素晴らしいので…フロントガラスの顔も…


夜のシーン。あからさまに照明を当ててますという丸出し感が嫌…もう少し、うまく当ててください。
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