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ダム・マネー ウォール街を狙え!のkuuのレビュー・感想・評価

3.8
『ダム・マネー ウォール街を狙え!』
原題 Dumb Money  映倫区分 G
製作年 2023年。上映時間 105分。
SNSを通じて団結した個人投資家たちが金融マーケットを席巻し社会現象を巻き起こした『ゲームストップ株騒動』の実話を映画化。
ベン・メズリックのノンフィクション書籍を基に『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』のクレイグ・ギレスピーが監督を務め、前代未聞の事件の内幕をユーモアたっぷりに描く。
ポール・ダノが主演を務め、ピート・デビッドソン、ビンセント・ドノフリオ、アメリカ・フェレーラ、セス・ローゲンが共演。
今作品は、映画『ソーシャル・ネットワーク』に登場するウィンクルボス兄弟(Facebook創業時に、ザッカーバーグを訴えた双子の兄弟)が、今作品のエグゼクティブ・プロデューサーだそうで、彼らはマーク・ザッカーバーグと法廷闘争を繰り広げ、そのことはベン・メズリッチの著書『The Accidental Billionaires/facebook 世界最大のSNSでビル・ゲイツに迫る男』に書かれている。
ベン・メズリックは『The Antisocial Network/反社会的ネットワーク』という本も書いていて、それがこの映画のきっかけになったそうな。

コロナ禍の2020年。
マサチューセッツ州の会社員キース・ギルは、全財産5万ドルをゲームストップ社の株に注ぎ込んでいた。
アメリカ各地の実店舗でゲームソフトを販売する同社は時代遅れで倒産間近と囁かれていたが、キースは赤いハチマキにネコのTシャツ姿の『ローリング・キティ』という名で動画を配信し、同社の株が過小評価されているとネット掲示板で訴える。
すると彼の主張に共感した大勢の個人投資家がゲームストップ株を買い始め、21年初頭に株価は大暴騰。
同社を空売りして一儲けを狙っていた大富豪たちは大きな損失を被った。
この事件は連日メディアを賑わせ、キースは一躍時の人となるが……。

今作品で描かれている出来事は、描かれてるよりも長い期間にわたって起きてて、キース・ギルが最初にレディット(掲示板型ソーシャルニュースサイト)で有名なフレーズ"I like the stock"を口にしたのは2020年1月か2月やそうで、ちょうどコロナ禍が起ころうとしていた時期。
作中の出来事は12カ月かけて解明され、ギルは2021年2月にようやく(映画に登場するような)証言をした。
実はギルは2019年からゲームストップ社の株を少額取引しており、当時は1株あたり5ドルを支払っていたが、パンデミックの襲来とともに1株あたり3ドルまで値下がりし、フルタイムの仕事を一時解雇されると、直感でこの1社で積極的に相場を勝負し、『COVID規制中は他にすることがないため、アメリカの若者はますますビデオゲームに頼るようになる』としてSNSに投稿した。
この論理は支持を集め、彼が何かをつかんだかもしれないという噂がコミュニティーの間に広まった。
何が爆発的になるかわからない時代になったなぁ。
日本でも、チョイ前にライブドアとフジテレビが繰り広げた、ニッポン放送株をめぐる仕手戦が記憶に新しいところかな。
今思えばあれはフジテレビの経営権を巡るガチな攻防やった。
ところが今作品の案件は、全然性格が違う。
SNS時代の相場ゲームみたいな実に軽いノリ。
軽いが、波及効果は絶大。
食いついたのは、圧倒的に若者。
今作品にあるようにウォール街のブローカーたちは、数字がどんどん大きくなるまで、最初はほとんど関心を示さなかったそうな。
扠、今作品一言で書くなら、究極のダビデ対ゴリアテの物語である。
一言って書いときながら、ダビデ対ゴリアテの教訓の意味は深い。
たとえば、常識を覆し、すばやく意表を突くことも大きな力になりうるだとか。
どないに強そうでも、見た目ほど強いとは限らないだったり。
鎧や剣を持ってまともにゴリアテと戦えば、小さな体の俊敏性を失い、ゴリアテの攻撃をかわせないなんてのもある。
そして、この世の支配者とその影響に対して戦うためには、自分自身の知恵や知性、経験などだけに頼ることは無駄であるって感じだけど、まさにダビデ対ゴリアテの教訓が言い得て妙。
ウォール街のセオリーをひっくり返し、パンデミック(世界的大流行)の最中にゲームストップ(ビデオゲーム会社)を一時期世界で最もホットな会社に変えて大金持ちになった、ごく普通の人々の実話に基づいています。
個人的なことですが、隣県に映画を観に行くってなると、以前は仕事のついでに劇場に立ち寄ってたが、最近は映画のみで隣県に訪れることもしばしば。
当たり映画なら内容を思い出しつつ楽しく帰れるが、オモロない作品に出逢った暁には、帰りは辛い。
辛いながらも通りゃんせおおりゃんせって、今作品はならずに想像を膨らましながら帰れた。
今作品では、他の多くの映画でも、そのような手法が取られていることは間違いないが、すべては実行の問題であり、今作品のストーリーの進め方がとても気に入りました。
金持ちを食い物にする話は以前にもあったけど、根本的に理解しやすいコンセプトやし、どうでもよかった。
今作品は期待に応えてくれて隣県まで行った甲斐がある。
正直、重いテーマなんやけど、鑑賞体験としてはとても楽しいものやった。
完璧とは云えへんが、この特別なストーリーでこれ以上の映画が作られるとは想像できないかな。
今作品は、複雑であることは云うまでもないが、重要なストーリーを、観てる側にとって興味深いものにする、ちゅう難しいことをやってのけてる。
テンポが良く、台詞は笑いを誘うものでありながらエモーショナルな要素もふんだんに盛り込まれていました。
出演陣が多いし、登場人物について深く知ることはできないが、それぞれが個性的で、見ていて実に面白い。
このキャスト全員に弱点はあまりなく、ポール・ダノを中心に物語が展開するのはとても正しいかな。
しかし、ちょい引っ掛かったのは、最初にこの映画に興奮させられた点、つまりクレイグ・ギレスピー自身。
確かに演出が悪い映画ではないけど、演出という観点からはかなり平板だと感じた。
あちこちに面白い演出はあるが、『アイ、トーニャ』、あるいは『クルエラ』で見せたようなエネルギーが今作品には感じられなかったのは残念かな。
この個人投資家たちがコンピュータゲーム小売店・GameStop(ゲームストップ)の株価をつり上げた(ショートスクイズ)現象を示す、『ゲームストップ・ショート・スクイーズ』を映画化するのは時期尚早ではないかという議論があるが、個人的には、ギレスピー監督がやろうとしていることはうまくいっているとは思う。
完璧なタイミングで公開されるとまでは云わないが、これらの出来事(特にコロナ禍)はすべてまだ最近の記憶なので、彼らが経験していることはまだ個人的に親近感が持てるものであり、キャラを支持しやすかったです。
kuu

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