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ボブ・マーリー:ONE LOVEのnetfilmsのレビュー・感想・評価

ボブ・マーリー:ONE LOVE(2024年製作の映画)
3.8
 Bob MarleyやReggaeに対してあまりにも思い入れが強過ぎるので、今作を観るのはパスしようかと思っていたのだが、東宝東和の肝入り作品でもあり、シネコンでも大きな館で観ることが出来るのは初週だけと思い、恐る恐る館のドアを開けた。結論から言えばBob Marleyの名曲の数々を大音量で浴びることが出来て、大変感無量だった。それは『ボヘミアン・ラプソディ』で主演のラミ・マレックにクイーンのフレディー・マーキュリーの声色や発声を真似させたのとは違い、ここで使われている声が主演のキングズリー・ベン=アディルによるものではなく、往年のBob Marleyの録音による当てぶり(リップシンク)であることに起因する。主演俳優にとってはある種屈辱的な演出にも思えるが、何よりもBob Marleyの特殊な声は何年本気で似せようとしたところで、似るわけがない唯一無二のしゃがれた美声である。一方でキングズリー・ベン=アディルに同情するとすれば、Bob Marleyのファミリーが裏方総出のプロジェクトに彼の発言権はほとんどなかったとも言える。然しながら今作には在りし日のBob Marleyのイメージがキングズリー・ベン=アディルによって新たな輪郭を獲得して行く。

 正直、家族総出のプロジェクトであることははなっからわかっていたし、そこに異を唱えるつもりも毛頭ないのだが、生ける伝説Bob Marleyのキャリアに泥を塗る様な作品に終わっているのではという嫌な予感が今作と私とを遠ざけていたのだが、その辺りの塩梅というか加減も決して悪くない。ムダに家族が登場したり、何よりBob Marley自身が名曲『One Love』や『No Woman No Cry』を歌った人なので、徹底した家族愛の家父長制的なお父さんとして演出されていないか恐怖でしかなかったのだが、国民的英雄としてのカリスマ的な振る舞いの裏には、どうしようもないダメなお父さんぶりがキチンと素描されていた。特に愛妻のリタ・マーリーにエゴイスティックな束縛を向けながら、パリの路上で罵り合う場面のBob Marleyのダメっぷりを描写しただけでも数多あるドキュメンタリーの傑作とは一線を画す。よくよく考えれば製作陣には奥様のリタ・マーリーや息子や娘もいるので妥当と言えば妥当なのだが、どんなカリスマにも完璧な人間はこの世にはいないと実感する。音楽的に言えば、渡英場面がTHE CLASHのライブなのが最高だし、スタジオ1のオーナーを務めたコクソン・ドッドがWailing Wailersの『Simmer Down』を発見する場面のカタルシスも入れてくれたことが何よりも有難い。Bob Marleyの半生ではなく、あくまで2年間という凝縮された時間の旨味を凝縮する作品は、期間的に言えば『EXODUS』誕生の軌跡である辺りは留意されたい。
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