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ほかげのkuuのレビュー・感想・評価

ほかげ(2023年製作の映画)
3.6
『ほかげ』 映倫区分 G
製作年 2023年。上映時間 95分。
塚本晋也監督が、終戦直後の闇市を舞台に絶望と闇を抱えながら生きる人々の姿を描いたドラマ。
趣里が主人公の女を繊細かつ大胆に演じ、片腕が動かない謎の男役で森山未來、戦争孤児役で『ラーゲリより愛を込めて』の子役・塚尾桜雅、復員した若い兵士役で河野宏紀が共演。
2023年・第80回ベネチア国際映画祭オリゾンティ部門に出品され、優れたアジア映画に贈られるNETPAC賞(最優秀アジア映画賞)を受賞したそうな。
名古屋の映画館ふらっと立ち寄りました。

焼け残った小さな居酒屋に1人で住む女は、体を売ることを斡旋され、絶望から抗うこともできずに日々をやり過ごしていた。
そんなある日、空襲で家族を失った子どもが、女の暮らす居酒屋へ食べ物を盗みに入り込む。
それ以来、子どもはそこに入り浸るようになり、女は子どもとの交流を通してほのかな光を見いだしていく。

サッカーとかスポーツの試合において、後半のプレーの質が前半と比べて著しく異なっていた、あるいは、今後異なる可能性があることを指す英語の表現に
‘A game of two halves’
てのがある。
これってのは、映画を表現する上でいつも興味深い云い回しやと思う。
一般的には、映画の質について言及することも少なくないんちゃうかな。
また、あるキャラから別のキャラへフォーカスを移すちゅう、ギアチェンジを意味することもある。
塚本晋也監督の今作品は、表面的にはそないな映画に見える。
塚本監督は、第二次世界大戦後の日本での生活に適応するために傷ついた人々の物語を描くことを目的としており、若い孤児(塚尾桜雅)と戦争の生存者という共通の視点から、まったく異なるように見える物語を語っていた。
前述の孤児は、若い娼婦(趣里)から盗みを働き、彼女が住む小さなパブ食堂の常連客となり、やがて住人となる。
そこに若い物腰の柔らかい兵士(河野宏紀)が加わり、やがて3人はその場しのぎの家族になる。 残念ながら、この新しい家族の絆は、兵士のPTSDによって徐々に損なわれていく。
塚本監督はこの『ほかげ』の前半を室内劇として作り上げ、登場人物がパブに出入りする場面ではほとんど芝居のようやけど、カメラは常にパブの中にある。
この雑然とした窮屈な小さな食堂という環境が、それ自体がひとつの世界を作り出しているのが魅力的で、この3人組が生き残るために互いに依存し始める素早い方法を合理化する空間を提供していた。
3人が家族のように交流し始めるさまは、インスピレーションに満ちたタッチでした。
若い兵士が毎朝『今日の分は稼ぐよ』と別れを告げるが、実際には仕事を見つけることができないまま。
娼婦が孤児と接するときに発せられる母親のような温かさも、特にいくつかの事実が明らかになったときに感動したかな。
塚本監督がこの状況を崩壊させたとき、その効果は非常に印象的で、手ぶれするカメラワークと残忍な暴力を短時間に使い、心に衝撃的で忘れがたい印象を与えてくれた。
そないな冒頭の強さゆえに、後半は比較にならないほど淡白になる。
不幸な出来事が重なり、孤児は再び旅に出ることになり、不思議な旅に出る露天商と行動を共にする。
ただ、居酒屋の内部が雰囲気たっぷりに撮られているのに比べ、屋外の伝統的なショットは説得力に欠ける。
しかし、後半は決して悪くなく、特にクライマックスには印象的な場面がいくつかあった。
終盤やと、戦争の惨禍がさまざまな人々にさまざまな形で影響を及ぼしたことを広く俯瞰して見せようという塚本の意図は明らかと云える。
このように、『ほかげ』は強力なメッセージを持つよくできた映画やけど、最初の設定にもっと長くとどまることを選んでいれば、その効果はもっと高まったってとこは残念やけど、個人的には、限られた予算で深い世界に連れていく、そんな映画の見本的な作品やと思います。
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