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ナポレオンのfujisanのレビュー・感想・評価

ナポレオン(2023年製作の映画)
4.0
『皇帝・ナポレオン』ではなく、『人間・ナポレオン』を描いた映画でした。

「ハウス・オブ・グッチ」から2年、御年86歳のリドリー・スコットが制作した歴史大作で、「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」と同じくApple出資の大作映画。

個人的に大好物の分野なので、公開初日に早速観てきました。ちなみに、まだ読んでいないですが、パンフ作られてましたので先にお伝えしておきます👍

そんな楽しみにしていた映画の内容は、壮大な歴史スペクタクルであり、ナポレオンと妻ジョセフィーヌの、複雑な愛憎劇の物語でした。


■ 壮大な歴史スペクタクル映像

受験時代、世界史は大好きな科目で、フランス革命の1789年を”火縄くすぶるバスチーユ” で覚えたりしていましたが、そんな世界史の教科書の挿し絵がそのまま動き出したかのような、大迫力の映像でした。

本作の戦争シーンは、カメラ11台、のべ8000人のエキストラに軍服を着せて軍事訓練を行い、ヨーロッパで大規模ロケを敢行した壮大なもの。

戦争を1シーンずつ撮影したのではなく、エキストラたちに”戦争そのものを再現”させ、複数のカメラで同時に撮影したという映像は、まるで戦場の記録映像のようであり、同時に、一度に撮影することで撮影期間の短縮にもつながったようです。

本作で描かれているのは、1793年のマリー・アントワネットのギロチンによる斬首刑から、1821年 ナポレオンが流刑先のセントヘレナ島で死去するまでの28年間。

ナポレオンは生涯で61もの戦争を戦ったと言われていますが、本作では歴史上重要な、5つの戦争が描かれています。
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・1793年 トゥーロンの戦い … ナポレオンの力を一躍有名にした
・1798年 エジプト遠征 … イギリスとインド間の貿易を断つための戦い
・1805年 アウステルリッツの戦い … ロシア・オーストリアとの三帝会戦。絶頂期のナポレオンが大勝
・1812年 ポロジノの戦い … ロシアに勝利するも、戦力の95%を寒さで失う。ナポレオンは退位し、エルバ島へ追放
・1815年 ワーテルローの戦い … 島から脱出し、再び皇帝となったナポレオンだが、イギリスプロイセン軍に大敗。セントヘレナ島へ流刑となる(100日天下の終了)
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2時間半とはいえ、その中に5つの戦争を描き切るには、複数カメラとデジタル技術でなければできなかったことでしょう。

また、映画としても、エジプト遠征からロシア遠征までを含めることで、最盛期のナポレオンがいかに勢力を拡大していたかが表現されていたと思います。

印象に残ったのは、予告でも使われているアウステルリッツの氷上の戦いと、最後のワーテルローの戦い。特にワーテルローの戦いでは、戦争の天才ナポレオン自身が戦いの途中で敗北を認識した瞬間の繊細な演技が素晴らしかったです。

戦争シーンそのものも中世の戦争らしく、鼓笛隊による演奏や、フランス軍は散兵戦術、対するイギリス軍は方陣戦術と、歴史の再現を見るような見事な映像で、とても感動しました。


■ ナポレオンと妻ジョセフィーヌとの複雑な愛憎劇

ナポレオンには、史上最短で士官学校を卒業した天才ぶりとともに、匂いフェチであったとか、猫嫌いだったとか、背が低かったとか、いろんな逸話が残っています。

それぞれの逸話には怪しいものもあるものの、匂いフェチであったり、背が低かったのかな?と思わせるシーンなど、映画でもいくつかが表現されていて面白かったです。

史実として残っているのは、ナポレオンが筆まめだったこと。通常の手紙とともに妻ジョセフィーヌに戦場からも多数の手紙を送っており、それらから、ナポレオンの人間性は割と詳細に分析されているようです。

ナポレオンの妻ジョセフィーヌは強い女性で、また同時に恋多き女性。最初の夫の死後、二人の子供を育てながらも、時代時代の権力者を巧みに誘惑し、ナポレオンと結婚する前はナポレオンの上官の愛人でした。

そんなジョセフィーヌに一目惚れし、一途に迫って結婚するも、したたかなジョセフィーヌに翻弄されるナポレオン。

軍を率いて留守にしている間にも愛人関係を作ってしまうジョセフィーヌとは度々揉めますが、離れそうで離れない、いや、離れられない愛と憎しみが入り交じった夫婦関係が描かれていました。

民衆の前では強い皇帝ナポレオンでも、裏では、母に甘えるかのように妻にすがる、愛に飢えた寂しい男。本作では、そんな『人間ナポレオン』が描かれていたことがとても印象的でした。


■ まとめ

好きなテーマだけに、こういうのを書き出すと延々と書いてしまうのでまとめますが、事前に想像していたよりも、『人間・ナポレオン』を描いた映画だったなと思います。

本作は2時間40分という長さなのですが、戦争シーンと夫婦のシーンがどちらも素晴らしく、またそれらが交互に繰り返されることでテンポよく進むため、長さは感じなかったです。

ナポレオンを演じたホアキン・フェニックスも素晴らしかったですが、妻ジョセフィーヌを演じたヴァネッサ・カービーが強く印象に残り、アカデミー賞候補間違いなしと言われているのも頷けます。

ギロチンにより毎日広場で首が飛ぶ中、強いシングルマザーとして子供を育て、ナポレオンとの愛に生きた人生。ナポレオンとは離婚することになってしまうのですが、離婚式での絶望、そして乾いた笑いの中で涙を見せる演技は今年一番でした。



伝統的に仲が悪いイギリスとフランス。

そんな中、イギリス人の監督が英語を話すナポレオンを撮ったことや、記録が残っていないジョセフィーヌとの関係をコミカルに描いたこと、内容がイギリス寄りなど、フランスの批評家からは酷評されたようですが、それを『うるせえ』とばかりに一蹴したリドスコ監督、さすがです。

『人が簡単に死んでいく戦争』 と 『夫婦間の愛憎』を同列に並べ、権力者の気分次第で簡単に人が死ぬ、っていう描き方は、最近観た別の戦国映画のデジャブ感がありましたが、人の命が軽かった時代は共通なんでしょうね。

(ちなみに秀吉とは、正妻との事実上の離婚に至る理由や、戦場から手紙を送りまくっていたところなど、共通点が多いのかも・・💦)

ということで、また長くなりそうなのでこの辺で終わります。

オススメかどうかは、歴史好きかどうか次第かと思いますが、私にとっては神映画となりました。


■ さらに続く雑談

□ Apple映画強し

アカデミー賞にも絡んでくるだろうと言われている本作ですが、「キラーズ~」と賞を分け合うようなことになれば、Apple作品の独壇場ということになりますね。今の時代、制作費を出せるのはこういう会社だけなのかもしれませんね。。

本作も、劇場公開終了後にはAppleTVで4時間10分のディレクターズ・カット版が配信されるそうなので、それを観るためだけに一ヶ月だけ契約しようかなと思ってます😅


□ 不幸を予感させる ”ハエ”

まだ一ヶ月ありますが、今年は映画シーンでハエを沢山観た年でした。「逆転のトライアングル」「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」に続き、本作にもハエが登場。

しかも、タイミングはナポレオン絶頂期から、悲劇のロシア遠征に向かう直前のシーン。ナポレオンの顔にハエがたかり、その後も羽音が続くシーンを観て、『あ~これあかんやつ』 となりました。。


□ ギロチンに対して人はどうなっていくのか

あと、不謹慎かもしれませんが、映画冒頭のマリー・アントワネットが処刑されるシーンは見ごたえがありました。

フランス革命当時は民衆も狂っており、処刑は一つの娯楽となっていて、そんな中苦しまないように発明されたのがギロチン。

当時、死刑執行人として名を馳せたシャルル・アンリ・サンソンという人がいるのですが、この人は狂ってない常識人で、彼が苦悩しつつ毎日首を落としていくストーリーがとても興味深いのです。

日本でも『イノサン』という漫画になっているようですが、こちらは未見。私はドキュメンタリーで観たのですが、ギロチンによる手軽な死によって人間はどう変わっていくのかという点でとても興味深く、機会がありましたら是非追いかけてみてください。(映画化してほしいなーと思ってます・・)

では本当に終わり。長文失礼しました。




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