ちょげみ

ナポレオンのちょげみのレビュー・感想・評価

ナポレオン(2023年製作の映画)
3.5
《あらすじ》
マリーアントワネットは斬首刑に処され、国内の混乱が続く中、天才的な軍事戦略で外国からの脅威を排除して皇帝の座まで上り詰めたナポレオン。
最愛の妻ジョゼフィーヌとの奇妙な関係の中で、ヨーロッパを手中に入れるため、終わることなき戦いに身を投じていく。。。

《感想》
英雄ナポレオンは誰でも知っている歴史上の人物ではあるのだが、彼の半生を題材にして撮った映画は少ない。

リドリースコットはかの英雄ナポレオンをどんな視点で、どこを切り取って、どんな映像、言葉で見せてくれるのか。

片田舎の小貴族がフランス革命という好機を利用して出世街道を駆け上がる成功譚か、あるいはヨーロッパを統一二歩手前まで追い込んだ軍事の天才の英雄譚か。
しかし劇場で待ち受けていたのは事前の予想とは全く違う映画でした。

ナポレオンの色恋沙汰、恋愛模様に主眼を置いた映画。
正確には色恋要素7割、戦争・政治要素3割で構成された映画です。


思えば、英雄色を好むという言葉が表すように、偉人の逸話にはかなりの確率で男女関係の話が絡みがちだし、ナポレオンを語る際にはこういった色恋沙汰を切り離せるものではないのかな。

それにしても、2億ドルもの巨額の制作費を投じて作られた作品なのだから、ヨーロッパ各国との戦争メインで話を進めていくのかと思ったけれども、戦争シーンがかなり少ないこと、そして圧倒的な勝率を誇るナポレオンの指揮した戦争の中でも敗北した戦争を多くピックアップしていたことは意外も意外。


普通、ナポレオンはこのイメージを持って語られることが多い。
非凡な軍事能力を持った傑物、即決即断で周囲が敵だらけだったフランスをヨーロッパの覇権国まで押し上げた英雄、政治的天分にも恵まれていて、近代世界の礎を築いた偉人。。。。

そして有名な逸話には以下のようなものが挙げられるだろう。
1日に3時間しか眠らなかった、エジプト遠征の際、戦艦に数万冊の本からなる図書館を設けていた、、ベートヴェンの「英雄」は元々ナポレオンに献呈する予定だった曲であり、曲の名前も「ボナパルド」だった、など。。。

まあ偉人の逸話は権威付けのために脚色が加えられることは多いとは言っても、それでもナポレオンは世界史の中でも五本の指に入るほどの軍略の天才であったことに間違いはない。

だけれども、リドリースコットはナポレオンがナポレオンとして名を轟かせている所以たる彼の天才性を描かなかった。
英雄として神格化されているナポレオンの天才性、異質性を剥ぎ取り、それ以外の部分に目を向けている。


ジョゼフィーヌがナポレオンに持つ、ナポレオンがジョゼフィーに持つ複雑な感情。
愛情だけではない。
忠誠心だけではない。
かといって、純粋な憎悪や怨恨とも違う。
いうならば愛憎。アンビバレンス。
立場と私情の間に挟まれながら変化していく二人の感情の機微をとても丁寧に掬い取りながら描いていた。

結局リドリースコットが描きたかったのは、ある種の神々しさをも帯びているナポレオンの才能を剥がした後に残る彼の人間性であり、彼の人生の中心に根付いている妻ジョゼフィーヌとの関係だったのだろうと思う。


総括すると、期待していたアクションシーンが少なかったことには落胆させられたけれども、恋愛映画としてのナポレオンにはかなり満足させられました。
思わぬ収穫、副産物が得られたような感覚、言うなれば美味しいと噂のラーメン屋での食事にて、ラーメンの味はイマイチだったけれどもおまけでついてたチャーハンがとてつもなく美味しかったみたいな感覚を持ちました。
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