人物を描けている物語こそ良い映画だというけれど、まさに市子から目を離せなくなる作品だった。市子の視線の流しかたや息づかいにいたるまで不穏で空虚で底が見えない。
彼女自身は言葉数少なであるし、感情をあらわにするタイプでもない。しかし市子の行動と彼女と関わった人々の証言によって、市子像が浮かび上がる。
持っていて当たり前だと思われているものをひとつ持っていないだけで、生きていくことは難しくなる。行政のシステムがあったとしても、救済が届かない世界で生きていくことしかできない人はいる。
欲しくても取得が難しいものを放棄することは、すべての市子たちにとってギフトに見えるのかもしれない。