むぅ

知りすぎていた男のむぅのレビュー・感想・評価

知りすぎていた男(1956年製作の映画)
3.7
ケ・セラ・セラ
なるようになるさ

お、エンドロールが近いな。
母が台所でその鼻歌を歌うと、小学生の私はそう思っていた。
両親の喧嘩の終わり間近に聞こえてくる曲である。
「水戸黄門」よろしく、天然の母が何かをやらかす→父の気に触る→それに気づかぬ母が天然爆弾で追い討ちをかける→叱られる、という毎回完全に同じパターンの夫婦喧嘩。それ以外のプロットを見たことがない。
父似の娘としては「なるようになるさと歌ってる場合ではない。何故回避できる地雷を敢えて踏むのか」と思っていた。今なら父の器の大きさに多少問題があった事が分かるが、当時は母の行動原理の方が圧倒的に謎であった。ヒッチコックの描くサスペンスより余程サスペンス感があった。

そんな「ケ・セラ・セラ」がキーになってくる今作。
モロッコ旅行中の3人家族、目の前で人が殺されるわ、息子が誘拐されるわで...。

個人情報がマーライオン!!と画面に入り込んで注意したくなるほどに、旅先で出会った男に夫が色々と話す。
事件に巻き込まれても"なるようになるさ"ではなく、"なるべくしてなってんぞ"と言いたくならないこともない。けれども、面白い。
"巻き込まれ型サスペンス"とよく聞くヒッチコックだが、個人的には"飛んで火に入る夏の虫型サスペンス"だと思っている。虫のように火の中で命を落とすわけではないので、ちょっと違うかもしれないが。

虫が近付きたくなるような炎の"ミスリード"、目を離せなくなる炎の動きのような展開、60年以上前の作品なのに凄いなと思う。

終盤の「ケ・セラ・セラ」を聞きながら、それを歌う妻と我が母が被る。共通項は"世間知らず"。
そう言えば、ヒッチコックにはそんな女性がよく登場するように思う。そしてもう一つ思い出した。
父はヒッチコックの映画が好きだ。
むぅ

むぅ