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アメリカン・フィクションのchunkymonkeyのレビュー・感想・評価

アメリカン・フィクション(2023年製作の映画)
4.5
トロント映画祭を制し一気にアカデミー賞の有力候補に躍り出たコメディ作品。傑作なのか佳作なのか、視点によってかなり評価が変わる作品である一方、低評価にする人は少ないのではないでしょうか?多様性の受け入れという社会問題をベースにしながらも家族や恋愛、キャリアの悲喜こもごもを盛り込み、ちょっと作りがTVドラマっぽいかなと思いました。原作小説は未読です。

主人公は冴えない黒人小説家のモンク。黒人らしさを前面に押し出し華々しく活躍する女流作家を苦々しく思う中、足が遠のいていた実家に帰ると母は認知症で、姉は離婚で疲れ果て、兄はゲイをカミングアウトしご乱心?そこに思わぬ悲劇が起こり、ストレス度マックスで崖っぷちのモンクはジョークのつもりでペンネームでこてこてのステレオタイプな三文黒人小説を執筆。ところがそれが大ヒット、映画化の話まで出てととんでもないセンセーションとなり...

全米で最も多様性に寛容なボストンとその近郊を舞台に、多様性を受け入れる気概はあってもそれをうまく社会として形にすることがいかに難しいかが、たくさんの爆笑を散りばめながら見事に表現されていました✨物語の結末は非常に"奇をてらった"ものになっているのですが、これも多様性を受け入れようとする社会のぎこちなさに、受け入れられる側のマイノリティが日々どう対処しているかを的確かつリアルに示し、「う~ん、これは上手い」と唸らせられます。

一方で、この映画を社会派映画ではなく主人公のモンクという一人の男の人生の映画として観ると、この奇をてらった結末が明確に仇になっています。かなり詰め込み気味の様々なエピソードを通して、モンクはカミングアウトした兄を始め母に姉、家族同然の使用人や新しい恋人、憎き女流作家などの登場人物たちから、自分の小説、そして自分の人生に足りないのは黒人がどうこうではなく、自分自身や他者に真摯に向き合うことなのだと教えられます。ところがこの工夫を凝らした映画の結末で、モンクはなんだか結局キャリアにおいてもプライベートにおいても自分の人生に向き合うことを諦めて放棄してしまった形になっており、若干モヤモヤが残りました。

時に笑い時にしんみり、社会問題にパーソナルな問題と様々な要素が非常にバランスよく盛り付けられているとても素敵な映画でした😊なんとなく、天才的な映画監督が情熱のほとばしるまま一気に作り上げた作品というよりは、そこそこの才能のテレビ作家が慎重に検討に検討を重ねて作り上げた丁寧な作品という印象かな。もちろんTVドラマのそれよりは全然質が高いです。あ、でも映像はやっぱりTVドラマっぽい雰囲気。ジャズを多用した劇伴がオシャレでありました♪おススメです。

予告編
https://youtu.be/i0MbLCpYJPA

2023年新作お気に入りランキング(12/22暫定)
1位:The Holdovers
2位:Past Lives
3位:哀れなるものたち
4位:キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン
5位:バービー
6位:AIR/エア
7位:American Fiction(本作)
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