柏エシディシ

アメリカン・フィクションの柏エシディシのレビュー・感想・評価

アメリカン・フィクション(2023年製作の映画)
3.0
才能はありながらなかなか世間に受け入れられない純文学作家セロニアス"モンク"エリソン。
エージェントからは「君の作品は黒人っぽくないから」などと言われてしまう始末。
やむない事情により、ステレオタイプな「黒人」小説を偽名で発表したところ、何とたちまち大ヒットしてしまい……

面白かったし、考えさせられた。
芸術と商業というテーマに、人種やそれに対する思い込みや偽善などを絡めたとてもスマートな映画。
しかもこの映画自体が"中流層の家族もの"という、凡そ「黒人映画」っぽくない構成になっているのが巧く、アイロニーよりも共感が前に出る語り口なのも良い。
そうだよな。当然、一口に人種で属性を一纏めに出来る訳ではない。
判ってはいても、悪気はなくとも。
それこそ映画や音楽を楽しむ私自身でさえ、多かれ少なかれそういったフィルターとは無縁ではないと少しドキリとしてしまう。気をつけたい。
冒頭の教室でのNiggerに関しての問答なんかがそうだが、文脈を理解した上で問題に向き合いオープンに語り、理解し合えるフェーズに私たちは向かっていかなければならない。
まぁ、まだまだその以前の段階で偏見や排外主義に凝り固まった人が沢山いる訳ですが。
道のりは長いけれど、こういう意欲的な映画の存在には希望を感じる。

ジェフリー・ライトが素晴らしい。この人の声と佇まい、ホント良いですよねー。
アカデミーにもノミネートされ日本公開を楽しみにしていた本作も、なんと配信スルー…
こんな所にも、「黒人映画」への理解と誤解を考えてしまうところ。
柏エシディシ

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