Omizu

アメリカン・フィクションのOmizuのレビュー・感想・評価

アメリカン・フィクション(2023年製作の映画)
4.0
【第96回アカデミー賞 作品賞他全5部門ノミネート】
『ウォッチメン』などドラマの脚本家として知られるコード・ジェファーソンの長編映画デビュー作。前評判は高くなかったがトロント映画祭観客賞を受賞し一気に一線へ。アカデミー賞では作品賞など5部門にノミネートされる大健闘をみせた。

これは脚色賞いくか…?『オッペンハイマー』など強敵もいる部門だが、比較的若手が評価されやすい部門ではあるので。さすがトロントの観客賞だけある。お見事な脚本だった。

『カラーパープル』が奮わず本作が大健闘したのを不思議に思っていたが、観終わってみるといい風潮な気がする。『カラーパープル』こそこの映画が揶揄するものだもんな…

脚本畑出身の監督だけあって展開力が凄まじい。典型的な貧しい黒人像を求める社会、免罪符が欲しい白人というものを大いに皮肉っている。一秒も飽きることなく観ることができた。

少し気になったのは主人公の弟クリフの描写。もちろん演じたスターリング・K・ブラウンはいいのだが、彼の描写が中途半端な印象。いい風に終わらせているけど何も進んでいなくないか?

しかし全体としては構成も演出力も役者も素晴らしい。コメディとして仕上げたテイストもナイス。随所に挟まれるブラックユーモア笑わせてもらった。

たぶん過去の「名作」とされる映画のオマージュもたくさん盛り込まれているのかな。劇場の前を走り抜ける姿は『バードマン』、最後の終わらせ方は『ザ・プレイヤー』などアルトマン要素を感じた。

そういう意味でも隙のない作品であった。終始困り顔のジェフリー・ライトも面白い。「多様性」や「ポリコレ」という言葉を白人の免罪符にするなという強いメッセージをブラックなユーモアに包んだ演出力が見事。本当に初監督?完成度が高い。

アカデミー賞では数年前の『プロミシング・ヤング・ウーマン』枠な気がする。キレ味鋭い社会派コメディ。他の部門は難しいだろうが、同じく脚色はとる気がする。

あと全然関係ないけど日本語字幕がヒドい。まぁ時間がなかったんだろうなぁ。そういう意味でもちゃんとした字幕をつけて劇場公開してほしい。もう無理だけど。
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