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至福のレストラン/三つ星トロワグロのギルドのレビュー・感想・評価

4.9
【益者三友で生み出す妥協なきレストラン】【東京国際映画祭】
■あらすじ
巨匠ワイズマン監督が、世界の食通が夢見るレストラン〈トロワグロ〉を描くドキュメンタリー。美食の国フランス、親子3代に渡り55年間ミシュランの三つ星を持ち続ける、その驚異の秘密に迫る。

■みどころ
大傑作!!
ミシュラン3つ星レストラン「トロワグロ」のミシェル・トロワグロとその家族の仕事を追ったお話。
93 年前に設立されたレストラン、トロワグロは 55 年間ミシュランの 3 つ星を獲得しており、2020 年には模範的な持続可能な実践が評価され、ミシュランのグリーン スターを獲得した歴史あるレストランである。

本作ではトロワグロ一家のレストランでの仕入れ、調理、サービスに関わる日々の業務を淡々と描く。
随所に挿話されるレストランの外観・内観や食材がある市場、農場、食品加工工場など様々映されていくワイズマンらしい展開もおなじみである。

映画は市場で食材の目利きをするシーンから始まる。
ある程度の食材の選定をし終えたところで、ル・サントラルにてコース料理の作戦会議が始まる。
コース料理の選定は綿密に行われ、食材や料理の方向性についてシェフらが討論を重ねていく。

映画は一変し、ミシェル・トロワグロと息子のセザール・トロワグロが切り盛りするトロワグロに変わる。
トロワグロのキッチンには大量の食材が届き、多くのシェフらが下処理に勤しむ。
菜の選別、貝の重量決め、ヒラメの三枚おろし、脳みその下処理など、各自様々な工程に取り掛かって淡々と進めていく。

それと同時タイミングでウェイターらは事前打ち合わせを行う。
来店するお客様の要望、お客様の目的・アレルギーの有無といった業務に関する打ち合わせから、ハラスメントは良くないよね的なコンプライアンスに関する話を行う。
またキッチンではセザール・トロワグロらコックらが集まり、料理の出す順番、順番から逆算した調理タイミング、料理を盛る皿の種類などを入念に打ち合わせていく。
そんな中でトロワグロは開店していくが…

本作は3つ星レストラン「トロワグロ」を切り盛りするミシェル・トロワグロ一家の料理を饗す姿を映したドキュメンタリー映画である。
前半は「トロワグロ」での調理風景・レストランの風景を映し、後半はホテルを運営するミシェル・トロワグロの妻や「ラ・コリーヌ・デュ・コロンビエ・レストラン」など一家の仕事風景を映しながらトロワグロ一家の仕事の流儀たる姿を映していく。

映画の大部分はコース料理を提供する最前線を映しているが、この映画の興味深いところは料理を出すにあたっての妥協のなさと徹底的な品質管理にあると思う。
コース料理の味だけでなく、料理の見栄え・タイミングまでも計算に計算を重ねていき、最高のおもてなしで料理を提供する姿に爽快感を覚えました。

また調理風景を映しているが、料理というよりは自動車の工場のような雰囲気に近くてそこが面白かったです。
いわば料理を工業製品のような存在に昇華し、日本のものづくりに匹敵するような品質管理をする現場の凄さが本作の白眉だと思います。
キッチンでは料理ごとの良品条件、提供する時間・最適な温度設定・調理時間をDRし、見栄えの良さ・料理に適合するワインの吟味といった官能評価までも入念かつ直前まで緻密に実施する姿を丹念に映す姿は職業柄、一種の爽快感を覚えました。

それだけではない。料理に大切な食材も資材調達のテンポで進めていく姿も興味深かったです。
QCD比較をシェフや畜産農家・酪農家らなどとDRしていく。
コース料理に出す料理と、そこに使われる食材との相性を合わせるために食材を作る現場から吟味し、食材から良品条件(=コース料理)を練り込む。
そこが見てて度肝を抜かれたし、感動を覚えました。
食材を目利きして、旬の素材や美味しい素材を見つける目利きをしているのは良いレストランならどこでもやっていると思う。
けれども、トロワグロでのシェフはキッチンやテーブルに目を配るだけでなく、食材の売り場・工場にまで足を向けて食材の品質をも逆算して料理を振る舞う。
しかも、良好な関係を築きながら互いに互いが納得するものづくりを目指している姿がアツかったです!

そんな徹底的な料理というものづくりをしながらも、若手のシェフの目利きを鍛える人財育成も欠かさずに実施したり、ウクライナ支援に向けたSDGsライクな計らいもする。名店たらしめる要素を現出する姿を映している所も素晴らしいです!
そこにはボストン市庁舎と同様に対話しながら良い未来を作る温かみがあって、その温かさと徹底的な姿勢に飲まれた4時間でした。

ここまで聞くと厳格なレストランという印象があるかもしれないが「やべっ、ミスった」とか大企業のコンプライアンス意識やSDGsとか良くも悪くも厳格さよりも人間味溢れる姿勢を見せるのが良かった。 しかも、それがお客様に料理を出す直前までのチューニングの妥協の無さに繋がってて見入いました。

終盤にはミシェル・トロワグロが客と対話するシーンを中心に撮られるが、
同じ料理でも常に再発見が存在する
お客様との出会いから生まれた料理もありますよ
息子は良いシェフで俺よりも上手くやってるけど、今でも俺に聞いてくれる。嬉しいけど、もっと自由に新たなやり方を模索して欲しいぜ。

という
子供の未来のために自由であること・行動することの大切さをお客様に伝えていて、この人から伝わる誇りとお客様との出会いの大切さにグッときました。

そんな本作は仕事をする事への誇り・気概・妥協しない事への素晴らしさを丹念に映していて、今年の東京国際映画祭の中で一番好きな映画になりました。

日本公開して欲しい!みんなも観て欲しい!
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