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ロクサナのkoyaのレビュー・感想・評価

ロクサナ(2023年製作の映画)
4.5
映画は海辺で倒れている男の人から始まります。
その周りをなぜか犬たちがうろつきまわるけれど、男の人は微動だにしない。

東京国際映画祭のコンペティション出品作品、イラン映画『ロクサナ』
実は、別の映画が即完売で第二希望的に選んだ映画なのですが、現代、2023年のイランの様子が見られただけでもうれしい。

かつて、イラン映画や中近東映画といえば、女性への抑圧や政治的な抑圧が描かれたと思うのですが、この映画は特にイランならでは、のシーンはありません。

ロクサナというより、フリードという無職の23歳の青年が主人公で、ひょんな事からロクサナという一人で、結婚式の撮影や写真などを請け負う商売をしている女性と知り合う。

確かに、短パンで外に出てはいけない、などという独特なルールはあっても、この映画の一番の魅力は「作り手の現実を見据えた上での許しのまなざし」だと思うのです。

ロクサナは前借をして商売しているし、フリードはなんだか無職で情けない。とにかく「お金がない」というのが底辺にいつもあるわけですけれど、決して貧乏はつらい、とか極貧にあえぐ、という風には描きません


フリードが好きになるロクサナは、女性ながら結婚式の撮影からMV作成まで一人でこなすし「家に閉じ込められた女性」ではありません。

フリードも甲斐性なしのところもあれば、ロクサナの為に進んで警察に出頭する、といったロクサナを守る、という事を自然にします。

ロクサナとフリードが撮影する結婚式のあでやかさ。
女性たちがストライプの現職の美しいスカートで踊るところのスカートのアップの美しさに撮影するロクサナのセンスの良さがわかります。

また、めぐりめぐってお金にはシビアな結果になってしまうけれど、「むち打ちの刑」をする前にインフルエンザの予防接種のように問診みたいな事するのが、怖いような、おかしいような。
絶望的な生理的嫌悪感が出るような演出は慎重に避けています。

ところどころ、ユーモラスなエピソードをはさんで、厳しい現実を生きる人たちを描きます。

日本で公開にはならないでしょうけれど、自分の中でこの映画と遭遇できたことは宝物のようです。
映画祭らしい映画で商業映画ではありませんから日本で公開にはならないでしょうが、本当に観られてよかったと思います。
映画っていうのは、瞳の快楽であり、同時に「行」でもあります。
映画祭に行くと、それを再確認します。
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