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ありふれた教室のたくのレビュー・感想・評価

ありふれた教室(2023年製作の映画)
3.9
ある中学校で、些細な出来事に始まった教師と生徒の相互不審が校内の秩序を崩壊させていく怖い話で、鑑賞中ずっと胃が痛くなるタイプの作品。学校側の運営方針である不寛容方式を真っ向から否定する内容で、問題解決のためには相互の歩み寄りの他に方法はないってことだね。これをオーケストラのチューニングに象徴させる演出が秀逸で、エンドクレジットの開始と同時に思わず声が出そうになった。監督のイルケル・チャタクは知らなかったけど今後注目の監督さん。

冒頭、オーケストラの開演前のざわざわした音響をバックにごくありふれた中学校の授業風景となる。ここでやる気に溢れた若き女性教師のノヴァクが、数学における証明には手順の積み重ねが必要と説くのは後の展開を暗示してるよう。この中学校では盗難騒ぎが頻発しており、犯人探しに躍起になってる教師たちがクラスの学級委員を呼び出して尋問するのが不穏。ノヴァクがこのやり方に反対するも、性悪説に立った学校側の不寛容方式が後の大騒動へと繋がる。

ある職員が飲料代の集金BOXからこっそり金を抜く場面を偶然目にしたノヴァクが、個人的に窃盗犯を見つけようと自分のPCの内蔵カメラで囮操作を仕掛けるのが彼女のたった一つのミスで、その証拠の突きつけ方もまずい。‥にしても、これだけ決定的証拠があるのに決して非を認めない職員の厚かましさにも呆れた。でも見方によってはそれは決定的証拠ではないかもしれず、ノヴァクの潜在意識の中で、もしかしたら他に同じ服を着てた人がいたのかもという嫌な幻想が現れる演出が上手かった。

窃盗容疑で休職となった職員の息子のオスカーが、母親を庇ってノヴァクに母親の無実を認めるよう迫り、頭の良い彼が生徒たちを巻き込んで学校側の不当なやり方を学級新聞で告発していく展開が恐ろしい。加熱した事態が頂点を迎えたところで、オスカーがノヴァクから預かってたルービックキューブを完成させるのが二人の歩み寄りを示す。そこからエンドクレジットでメンデルスゾーン「真夏の夜の夢」の序曲が始まることにより、終始不協和音で描かれてきた本作全体がオーケストラのチューニングに象徴されてたのだと分かって感動した。
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