masahitotenma

秋刀魚の味 デジタル修復版のmasahitotenmaのレビュー・感想・評価

3.9
小津安二郎監督の円熟味溢れる遺作。
脚本は野田高梧と小津安二郎。
撮影は厚田雄春。
音楽は斎藤高順。
今回の鑑賞はデジタルリマスター盤。
(1962、1時間53分)

大手企業の重役として働いている平山は年頃の長女、次男との三人暮らし。
旧友が長女の縁談話を持ってきても聞き流していたが、クラス会に呼んだ元恩師と婚期を逃した恩師の娘の惨めな姿を見て、同じようになったら大変だと、娘の嫁入りを真剣に考える。
娘が密かに思っている人がいることを知り、長男を通して相手の男の気持ちを尋ねるが、既に婚約者がいた。
失意の娘は、縁談先相手と会うことにする…。

~①主人公の同居家族~
・平山(笠智衆):主人公。大手企業の重役。海軍の元艦長。妻を亡くしている。
・長女、路子(岩下志麻):24歳。父と弟の身の回りの世話をする。
・次男、和夫(三上真一郎)

~②長男の家族~
・長男、幸一(佐田啓二):妻と団地暮らし。薄給。マクレガーのゴルフ・クラブを欲しがる。
・その妻、秋子(岡田茉莉子):冷蔵庫を欲しがる。

~③旧友(旧制中学からの友だち)~
・河合(中村伸郎):長女の会社の上司。
・その妻(三宅邦子)
・堀江(北竜二):若い妻を娶っている。
・その後妻(環三千世)

~④恩師と家族~
・恩師/ひょうたん(東野英治郎):今は薄汚いラーメン屋を営む。妻を亡くし、娘を便利に使ってきた。いつも酔いつぶれる。
・その娘(杉村春子):父親の世話のため婚期を逃す。生活にやつれて、冷たく口うるさい。

~⑤その他~
・長男の同僚、三浦( 吉田輝雄):長女の意中の人。知人からのゴルフクラブの売却を頼まれる。
・小料理屋「若松」の女将(高橋とよ):旧友たちにからかわれてばかり。
・バーのマダム(岸田今日子):亡き妻の若い頃に似たところがあるらしい。
・軍隊時代の部下(加東大介)
・会社のOL(牧紀子):結婚して退社する。
・会社の秘書(浅茅しのぶ)

「負けてよかったじゃないか。
そうですかねえ。うん、そうかも知れねえなあ。馬鹿な野郎が威張らなくなっただけでもね」

「似てるかな。似てませんよ。
よく見りゃだいぶ違うがね。どっか似てるよ。
そうかな」

「だったらもっとも早く言って欲しかったなあ」

「結局、人生はひとりぼっちです」

生涯独身で母と二人っきりだった小津監督は、この作品の撮影中に母を亡くしている。
妻に先立たれた初老の父親と婚期を迎えた娘を嫁がせるという、名作「晩春」と同じような内容だが、母の死後ますます酒量が増えたとされる監督自身の「老い」と「孤独」がより色濃く反映された作品になっている。
笠智衆の表情が見せる孤独感、寂寥感はただ事ではない。
根底に流れる「孤独」はあるものの、笠智衆、中村伸郎、北竜二の友だち3人が小料理屋で交わす会話にユーモアがあり、暗くなりそうな作品にバランスを与えている。
まだ新人だった岩下志麻は、浦野理一の和服、森英恵の洋服を着こなし、美しい容姿を見せている。
巻き尺を指に巻くシーンでは、100回ほど取り直し、撮影後小津監督から食事に誘われ「志麻ちゃん。人間というものは悲しいときに悲しい顔をするものじゃないんだよ。そんな単純なものじゃない」と言われたその言葉が「私の演技の原点になっています。大きな言葉でしたね」と、後年岩下は語っている。
本作の後、彼女は「古都」(1963)「五瓣の椿」(1964)「心中天の網島」(1969)などで、魅力的な演技を見せ、日本を代表する女優に成長していく。
masahitotenma

masahitotenma