三四郎

秋刀魚の味 デジタル修復版の三四郎のレビュー・感想・評価

4.6
5年前に観た時はなんとも思わなかったが、今見返してみると…いい話だなぁ。
杉村春子の父親を見つめる表情、演技に哀切を感じた。そして、かつての教え子が立派に成長し偉くなっているのは嬉しいだろうが、暮らしを見られた後にお金を渡されるのは…やはり辛いだろうな、悲しいやら情けないやら哀れやら…観ていて辛くなった。

軍艦マーチ流れるバーにて。負けたから、今の若い奴らはアメリカの真似してレコードかけてケツ振って踊ってる、もし勝ってたら…という話をする海軍時代の元部下に対して、悟りの微笑を浮かべ「負けてよかったじゃないか」と言う笠智衆。そう言われて元部下はそうかなぁと考え直し、馬鹿な野郎が威張らなくなっただけでもよかったと笑顔で応える。軍人、特に陸軍への批判、皮肉だろう。日本映画や日本文学、どちらも海軍には好意的だ。「本日天気晴朗なれども波高し」

さて、岩下志麻がかわいそう…。失恋にも色々あるが、親兄弟が動き、結果は失恋…というのが一番やりきれないなぁ。さらに結果を言い澱みながらも直球で伝えるデリカシーのない父と兄。笑っちゃいけないが、父、兄、弟男三人のノーテンキさはユーモラスだった。彼らの前で毅然と振る舞わねばならない傷心の娘…。

しかし、ヒロイン岩下志麻は、腹話術のようにほぼ無表情で、演技指導に従い型にはまらされたという演技だったなぁ。『彼岸花』の有馬稲子、『秋日和』の司葉子のヒロインの方がまだ動的に演じていた気がしたのは、役柄のせいかしら。小津監督作品の岡田茉莉子はいつも一人のびのびとしていておもしろい。
三四郎

三四郎