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ゴースト・トロピックのyzのレビュー・感想・評価

ゴースト・トロピック(2019年製作の映画)
4.5
予告でこれは好きなやつだと思った通りで観て良かった。『Here』も観ます。

土地・場所の記憶、眼差し。映画は時間を操れるけど、こんだけゆっくりさせても良いんだよなと思った。
こういう映画も好きなのだと再確認した。
現在に、過去撮られた知らない場所の嘘の記録を観て、過去の知っている場所の本当の記憶を思い出す。いつか未来この作品のことが不意に立ち上がってくる風景と出会うかもしれない。時空間の混濁。すごく好きな金子由里奈監督の映画と言葉の眼差しを思い出していた。この作品から感じる「ゴースト」は金子さんが言う「眠る虫」(作品の方ではなく風景を指す言葉の方)に似ている部分があると思う。
『すべての夜を思いだす』のことも浮かんできたのだけど、清原監督が本作にコメントを寄せている。そりゃそうだよな。

不可視とされてきた存在を眼差すことはリベラリズム的/倫理的な正しさの側面を持っている。しかし(それ以前に?同時に?)素朴に私たちの生活の眼差しを変える可能性に満ちているという見方が出来る。
「念入りな散歩が好き」という哲学者のことを考えた。「念入り」とは「散歩中に出会うものの中で一番忘れてしまいそうなものを一番見る」ことだとその人は言っていて、そんな風景が多分に捉えられていて目が離せなかった。

凍死寸前の人の為に通報出来ること、ティーバッグが切れていると教えられること、その気づける眼差しは「優しさ」だと思うけど、それが一転、酒では警察に通報してしまうし、娘の姿はあまり見たくなかったのではないかと思う。この、よく見てること/見えてしまうことのバランスが真摯的だと感じた。また、優しさのバランス感覚も優れている。前述のティーバッグの店の店員は、店を閉めたいからハディージャの長居は拒む。しかしハディージャの様子を見て、車で送ってくれる。ハディージャは娘の姿を見つけ車を降りる時に、その店員の言葉を遮るようにドアを閉める。そこに映画的なマジカルな善性は存在せずそれぞれの優しさと冷たさが同居する。すごく人間だ。

映画は世界の一部をフレームで切り取って見せる。その中で眼差されたものに気づきを与えられ、見えなかったものが見えるようになる。世界そのものへの眼差しが変わる。まずは、ただそこに在る人やものを眼差すことから始めよう。
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