アニマル泉

峠を渡る若い風のアニマル泉のレビュー・感想・評価

峠を渡る若い風(1961年製作の映画)
4.5
清順は1961年になんと6作品が公開されている。そのうち5本が和田浩二の主演作だ。本作は旅回り一座と風来坊の大学生・信太郎(和田浩治)のロードムービーである。清順の「橋」「トンネル」「川」が頻出する。信太郎と美佐子(清水まゆみ)のラブシーンはすべて「橋」だ。夜の川辺のベンチの二人に花火が上がり、妹めぐみ(刈谷ヒデ子)がネズミ花火を放つと驚いた二人が抱擁する。「階段」は一座が泊まる旅館に現れる。一座が見守るなか信太郎とヘラクレス(藤田山)が指相撲をする、すると見ていた人々が一斉にいなくなり二人だけになる、この場面から清順独特のオフショット感覚(あえて見せない)が発揮される、隣の部屋ではストリッパーのマリリン(星ナオミ)を悪徳興行主・秋田(近藤弘)が引き抜こうとしている、そこへ秋田のヤクザ達が流れ込んでくる、美佐子がヤクザを引っ叩く、ヤクザが信太郎を引っ叩く、信太郎が秋田の背中に拳銃を突きつける、秋田とヤクザが退散する、この時に大階段のロングショットになる。信太郎と一座の面々が勝鬨を上げて、信太郎の拳銃が奇術用のおもちゃだった事が明かされる。このくだりは見事なテンポだし、清順印の階段が現れてうれしくなる。
本作は祭りの夜の信太郎とジョージ(藤村有弘)の喧嘩の場面が有名だ。信太郎がかき氷のシロップを次々と浴びる、赤いシロップを浴びると赤い照明、黄色のシロップで黄色の照明、青いシロップで青い照明と次々にライトチェンジする。後に開花する清順美学の芽生えだ。
本作で面白いのは「布」の主題である。奇術で人間が消える大きな布、信太郎が叩き売る女性用下着、ラストで信太郎のリュックから出てくる万国旗、あるいは美佐子が楽屋を飛び出す時に落下する暖簾、など様々な布があちこちで躍動する。
清順の重要な主題の「宙吊り」も本作の見せ所になる。座長の今井(森川信)が縄抜けの脱出奇術を練習するために箱の中に縛られて、箱がクレーンで宙吊りになり、川の中へ水没する。この場面は清順らしい素晴らしい場面だ。さらに痛ましい事故になるのだが、次の場面へのジャンプの仕方も素晴らしい。清順は編集上でのジャンプカットが独特だけれども、場面の飛ばし方、場面ジャンプも面白い。ジャンプすることで生まれる鮮やかさ、飛ばしのオフ感、シャープさ、ドライ感が清順の魅力になっている。
本作はロードムービーである。千葉佐原市、青森、秋田、会津若松と祭りと共に移動していく。とはいえ祭りのカットを挿入して、ほとんどは千葉佐原市と東京近郊で撮影されている。ロードムービーらしいのは乗り物だ。バス、一座のトラック、船の場面が楽しい。トラックが走るのはもちろん坂道だ。「高低差」の清順らしい。
本作は旅回り一座やテキヤの物語なのでグループショットが多い。清順はなるべくグループショットで押して、カットを割らず、最小のカット数で撮っていてなかなかの手腕を見せている。
拳銃が出てくると清順映画は一気に活き活きする。本作ではラストのおてぶらの健(金子信雄)とピエロ(杉狂児)の殺しまで、ことごとく拳銃が無効になるのが本作の注目ポイントだ。
カラーシネスコ。
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