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Vermines(原題)のIMAOのレビュー・感想・評価

Vermines(原題)(2023年製作の映画)
3.8
なんの予備知識もなく観たのだけれど、とても面白かった。セバスチャン・バニセック監督の長編デビュー作。フランス映画祭にて鑑賞。

フランスのパリ郊外にある団地。そこに暮らす主人公の青年はスニーカーなどを闇市場で取引して暮らしている。妹と一緒に住んでいて、彼女はこの団地を出たがっているが、青年は死んだ母親の思い出もあり、この地を離れたくはないと思っている。というのも、彼には爬虫類や昆虫収集の趣味があり、いつかそうした動物専門の博物館を作りたいと思っていたのだ。そしてある日、彼は珍しい海外の蜘蛛をブローカーから買い取るのだが…

基本、ホラー映画なのだが、このロケ地となった団地の近辺で生まれ育ったパセニック監督。この地への愛着、そして友人や家族への思い、そうしたものが多層的に積み重なっていて、そこが単なるホラー映画以上の厚みを持たせている。パリ郊外にはこの映画で描かれたような、低所得者層が多く暮らす団地があり、近年多くのフランス映画の舞台となっている。そのことを上映後の質疑応答で聞いてみたら、やはりマチュー・カソビッツの『憎しみ』は、かなり意識していたそうだ。ただ、かつてのそうした映画は、こうした団地のマイナスイメージばかり描いてきてので、そうではない良い面を描きたかったと語っていた。その言葉の通り、この映画に描かれるこの地に住む人々や、団地そのものの佇まいがとても魅力的に描かれている。この映画がヒットしたことでアメリカ資本からも声がかかっているそうだが、彼としてはあくまでもフランス人によるフランス映画を撮りたいとのこと。これからが本当に楽しみな人。
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