似太郎

天城越えの似太郎のレビュー・感想・評価

天城越え(1983年製作の映画)
5.0
【愛憎🔪】

松本清張原作の映画化で、制作が野村芳太郎。脚本は加藤泰。監督は加藤の助監督経験のある三村晴彦の第一回作品。石川さゆりの名曲と共に鑑賞するとさらに面白味が増す。

昭和初期の混迷した様相をバックボーンに据えた、一人の思春期の少年の揺れる心を綴ったドラマ。娼婦役の田中裕子がセクシーで色っぽい。
ムフフ。

現代パートと昭和初期パートを交錯させながら進行する不思議な構成。単なる推理サスペンスの枠を超えた、加藤泰ならではの「生きていく辛さ」をテーマにした情念に満ちた男女のロマネスクの描写が美しい。

ある意味、思春期の少年の通過儀礼を描いた詩的な作品とも取れる。渡瀬恒彦演じる初老の男のいつまでも女(ひと)を想う気持ちが、日本的情緖溢れる映像美で描かれた逸品。

今も昔も生きていく辛さは変わらないという比喩が全編に込められている切実な映画である。三村晴彦✖️加藤泰チームの現代人に贈るメッセージが痛烈に響く名作。木下恵介の『永遠の人』にも通じる。
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