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ソイレント・グリーン デジタル・リマスター版のnetfilmsのレビュー・感想・評価

4.2
 映画の設定は2022年で、もっと観られても良い映画だとは思うが、昨今の作家主義の形骸化もあり、なかなか若い世代にリーチにしない映画ではあるのだが、むしろ今作のディストピアな世界を若い世代が観てどう想うのか非常に興味がある。アメリカの職人監督による未来への警鐘と言えば非常に聞こえは良いのだが、ジョン・カーペンターの『ゼイリブ』に熱狂した世代には今作も同様に見逃せない作品である。2022年のニューヨーク。ここも地球上の全ての土地と同様、人口過剰と食料不足にあえいでおり、ごく1部の裕福な人を除き、4000万市民の大部分は週1回配給される食品を食べて細々と生きている。この食料はソイレント会社が、海のプランクトンから作っていたがすでにそのプランクトンさえ激減していた。最近、同社は「ソイレント・グリーン」という新しい製品を発表する。毎週火曜日、政府が配給する新食材、ソイレント・グリーン。タイトルの「ソイレント」はSOY(大豆)とLENTIL(レンズ豆)の合成語だが、この不思議な食材に隠されたショッキングな秘密を巡り、スリルとアクションに満ちた緊迫の物語が展開する。

 彼らに比べれば、市警察殺人課の刑事ソーン(チャールトン・ヘストン)は、職があるだけによほどましな暮らしである。むさくるしいが2階屋のアパートに老人のソル・ロス(エドワード・G・ロビンソン)と住んでいる。ソルはいわばソーンのメンターであり、事件の背景を調べ、ソーンの捜査を助けている。ソーンは、ソイレント会社の幹部の1人ウィリアム・サイモンソン(ジョセフ・コットン)が自宅で惨殺された事件を担当することになり、事件の恐るべき泥濘に足を取られる。ハリイ・ハリスンのSF小説『人間がいっぱい』を原作とする物語は、人間が増え、近い将来食物が枯渇した社会を描写する。SF的なディテイルは極めて稚拙でちゃちな世界に思えるが、現代の世界線で言う所の上級国民がタワマンに住み、下流国民はビルの階段や貧しい教会の中で寝泊まりするしかない。その辺りの人間の配置が痛烈で、高級娼婦を人間家具(ファーニチャー)と呼ぶ辺りもジェンダー平等以前の作品なのだが、中盤の暴動から国家が提示した欺瞞が暴かれるまでの苛烈さは見事と呼ぶ他ない。ベートーヴェン交響曲第6番「田園」 が流れる中、環境破壊以前のユートピアだった時代を一瞬だけ感じながら老人たちは絶命する。その痛烈さは現代の高齢化問題待ったなしの時代を50年早く照射していた。
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