真一

朽ちるの真一のレビュー・感想・評価

朽ちる(2024年製作の映画)
4.2
あなたと
あなたの連れ合いは
廃墟の団地で暮らす
孤立無援の
老夫婦だとします。

食糧断絶。
飲み薬枯渇。
近づく最期。

あなたなら、
どうしますか。
自ら命を絶ちますか。
それとも命を全うしますか。
死を待つだけの
連れ合いに
どんな言葉を掛けますか。

本作品は、絶望の淵で
朽ち果てていく老夫婦の
苦しく切ない生き様を
リアルに描いています。
胸に迫る短編映画です。

舞台は社会崩壊を
起こした近未来の日本。
ゴミだらけの団地の一室。
重度認知症の妻が
車椅子の夫に言う。

「殺してくださいな」

「バカ言うな!」と怒る夫。
2人はもともと
おしどり夫婦だったようだ。

だが、足が不自由な夫は
何もできない。
自室は公団住宅の5階。
エレベーターはない。
つまり屋外に出られないのだ。

底をつく缶詰。
汚れきった体。
悪臭漂う部屋。
時に「お前は誰だ!」と叫ぶ
認知症の妻。
夫が取った最後の行動とはー。

ざっとこんなあらすじです。

愛とは何か。
人間の尊厳とは何か。
希望とは何か。

考えさせられます。
そして、泣かされます。

同時に本作品は

超高齢化社会を生きる
私たち一人一人に

「日本社会が壊れれば、自分も老夫婦と同じ運命をたどるかもしれない」

という恐怖を掻き立てます。
榎本明さんと羽子田洋子さんの
圧巻の演技に、観る人は
胸を抉られるでしょう。

ただ、社会崩壊の原因を
ゾンビ発生に求めたのは
失敗でした。
愚かな経済政策の行き詰まりや
無益な武力衝突による
国家混乱を前提とした
ストーリーにすれば、
よりリアルさが
増したはずです。

もっとも、そうした欠点を
加味しても、本作品は
見ごたえのある
良作だと思います。
真一

真一