滝和也

太平洋奇跡の作戦 キスカの滝和也のレビュー・感想・評価

太平洋奇跡の作戦 キスカ(1965年製作の映画)
4.0
5200名の命を救う
べく、戦力10対1の海へ
三船敏郎演ずる
司令官が率いる
第一水雷戦隊出撃!

太平洋戦争における
奇跡の史実を素に東宝
オールスターが贈る…

「太平洋奇跡の作戦 キスカ」

アイシャルリターンの言葉を残しフィリピンから撤退したマッカーサー。太平洋戦争中期、ミッドウェー海戦から逆転した米軍はその言葉通りに飛び石の如く、大日本帝国へと迫り、サイパン、グァム他各地で帝国軍は玉砕を遂げた…。北方においても然り、既にアリューシャン列島のアッツは玉砕、キスカ島に残る5200名の守備隊の命も風前の灯となっていた。海軍軍令部では同じ轍を踏まじと第五艦隊司令川島中将が奮戦、救助の決死隊を組む事となる。川島が選んだ男は兵学校の同期大村少将。大村は細心にして大胆に第一水雷戦隊を率いキスカへと向かう…。

史実を素にした太平洋戦争を描いた戦記ものですが、その根底にはヒューマニズムが流れ、ただただ軍事礼賛ではなかったと言う史実としてのリアリティが描かれています。そもそも海軍が比較的開明的で陸軍が盲目的であったと言われていますが、この作品を見ればそれがわかります。またスーパーバイザーとしてその地にいた方が付いているのがリアルさを更に高めてます。

映像的にはモノクロ画面による粗めの撮影がその全てにリアリティを与えています。まずはキスカ島は富士山麓、二合目辺りで撮られているのですが、雪の降る厳寒の地の荒涼たる島のイメージにピッタリ。更に敵B17爆撃機に制空権を握られ、爆弾が雨あられと降る地。その爆発の特殊効果の見事な事、大迫力です。

勿論特技監督には神様円谷英二。その艦隊の特撮の見事さは流石、戦中、戦後に米軍が本物と見紛えた素晴らしい技術が光ります。霧に塗れ、潜入する艦隊の動きと艦橋で指揮する三船ら俳優陣とのカットバックで繋がれ、更にリアリティが増すと言うその技術力。

10倍の艦隊が待つ地への隠密撤収作戦と言う無理難題に挑む大村司令官に三船敏郎。流石大胆かつ細心な現場の叩き上げと言う役柄であれば正にお手の物。その無骨なキャラクターがピタリとハマる。周りから非難されようとも頑固一徹、危機に対して苦渋の表情あれども冷静な判断で乗り越えるそのカッコ良さ、正に元勲三船です。

またそれを支えるは東宝のオールスターキャスト。盟友川島中将に山村聡。七人の侍からは稲葉義男、志村喬。海底軍艦の田崎潤、ゴジラシリーズの平田昭彦、中丸忠雄、藤田進と正に軍人らしさ満載の男達が結集。これを見てしまうと現代ではリメイク不可能と感じますね。アルキメデスの大戦を見たあとだから尚感じます。邦画はアウトローや線の細い二枚目ばかりになり、ベテラン層も役不足極まりない事を露呈しています…。

邦画の戦争モノはどうしても悲観的な内容ばかりになるのですが、いやはやこんなスカッとするようなシリアスエンターテイメント路線もやっていたのかと感じる佳作だと思います。この監督、日本海大海戦以来の鑑賞2本目でしたが、円谷英二とのコンビがハマってますね。これはオススメできる作品です(^^)
滝和也

滝和也