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女ドラキュラのhorahukiのレビュー・感想・評価

女ドラキュラ(1936年製作の映画)
3.2
吸血鬼なんてもう嫌!!
なってみたは良いけれど、めちゃくちゃ不便な吸血鬼の特性に嫌気がさした公爵夫人が、人間に戻りたい!というワガママぶりを発揮するホラー映画。

トッドブラウニング監督の傑作であり、映画史に残る名作である『魔人ドラキュラ』の続編です。

あらすじ…
ドラキュラ伯爵を殺したヴァンヘルシング教授は殺人罪で警察の御用に。吸血鬼の存在を訴えるも信じてもらえず、教え子である精神科医に異常ではないことを証明してもらおうと呼び寄せる。同時期にドラキュラの死体が若い女性によって盗まれた。そしてその頃から首筋に傷痕のある死体がロンドンで見つかるようになり…。

映像的な美しさはブラウニング版には遠く及びませんが、普通の人間として生きたいと願いつつも本能である吸血衝動に抗えず、「吸血鬼であること」について苦悩する姿を描いた当時としてはかなり画期的な作品。完全なるモンスターとして、そして人間の敵として吸血鬼を描いた前作とは違い、モンスターでありながら、より人間的で同情を誘うようなキャラクターとして方向転換を果たした意欲作です。

ドラキュラ伯爵に吸血鬼にされたせいで夜にしか活動できず、さらに定期的に人を捕まえ吸血しなければ生きられない。その呪いを解く方法はなく、永久に抜け出せない牢獄に囚われたも同然の存在としてモンスターを描いただけでなく、女性を吸血鬼としたことで、女性の社会進出が難しかった当時の社会情勢をも反映したものになっているのではないかとも思えてくる。そんで男性の性衝動の象徴としても捉えられるドラキュラによって堕とされたわけだから、男性の身勝手さに虐げられた女性と見ることもできるわけです。

そう考えると女吸血鬼が主人公との愛を求めるのは過去の男の呪縛からの解放を望んでのことと見ることもできる。そんで吸血衝動=性衝動なわけなので、本作でも恐らくそういったことを暗示してるのだと思います。ただ本作の吸血鬼は男性だけでなく女性も襲うので両刀ということになっちゃいますがね。実際にとある女性を襲うとこなんて時代を考えるとかなり冒険してる。そんで愛と吸血衝動を別物として描いてるとこも面白い。

ベラルゴシ演じるドラキュラ伯爵の貴族然とした圧倒的なカリスマと、性と死を混在させた淫靡なムードが魅力だった前作に対して、永久の牢獄の中で愛という一筋の光を求めた女吸血鬼の悲哀を描いた本作。どちらも面白かったのですが、本作は演出とか撮影に惹かれるものがなく、話運びも雑で、テーマが良いだけに勿体無く感じました。やはりブラウニングの前作には敵わないですね。ちなみにブラウニングは『魔人ドラキュラ』のあと、『古城の妖鬼』(未見)というベラルゴシ主演の吸血鬼ものを撮っています。そっちも見たい!
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